警察官は治安維持を担う公安職であり、上からの指揮系統を明確にするため、すべての警察官には階級がつけられています。
この階級というのが一般企業とは大きく異なるところであり、上下関係の厳しさの根本となっているものでもあります。
これが俗に言う階級社会です。
階級社会と聞くと少し息苦しい世界を想像してしまいますが、警察官になるならば絶対に受け入れなければいけないことです。
階級社会の特徴としては
- 上下関係が厳しい
- 上司の指示は絶対
- 階級における差が激しい
ということが挙げられます。
同じ公安職で言えば自衛隊や消防士も階級社会ですが、いずれも上下関係が厳しい組織であることは間違いありません。
そうは言っても階級社会は実際に経験してみないとその厳しさはわからないでしょう。
警察官になってみて「こんな世界だったのか…」となってしまっては大きく後悔する部分もあると思います。
そこで、この記事では警察官の階級について特集し、警察官の階級&階級社会における上下関係の厳しさについて詳しく解説していきます。
元警察官の私の経験談も交えて紹介していきますので、これから警察官を目指す方は参考にして頂ければと思います。
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警察官の階級について
まずは警察官の階級について紹介していきます。
冒頭でも説明した通り、すべて警察官には階級がついており、その階級によって上下関係が決まります。
階級が1つ違うだけでそこには厳格な上下関係が存在することになり、それぞれの立場も変わってきます。
制服の警察官は階級を表す階級章を左胸に付けるため、その階級章を見れば階級は一目でわかります。
刑事など私服で勤務する警察官は階級章を付けません。
階級が始まるのは警察学校に入校してからです。
警察官採用試験に合格し、警察学校に入校すると巡査を拝命することになります。
国家公務員のキャリア組の警察官を除けば、誰もがこの巡査からのスタートです。
警察官の階級を順番に見ていきましょう。
- 巡査、巡査長
警察学校に入校した時点で巡査となる。その後、高卒と大卒によって年数は異なるが、年数が経過すれば自動的に巡査長へと昇任する。
なお、巡査長は階級で言えば巡査なので、厳密には昇任ではない。
- 巡査部長
巡査や巡査長が昇任試験に合格すると巡査部長に昇任する。巡査部長は主任とも呼ばれ、初級幹部と表現されることもある。
巡査と巡査部長ではまったく立場が異なり、給料にも違いが出る。まずは誰もが巡査部長を目指すことになる。
- 警部補
巡査部長が昇任試験に合格すると警部補になる。警部補は係長とも呼ばれ、幹部の役職に当たる。
警部補になると多くの部下を持つことになり、部下に指示を出すことも多い。巡査から見れば警部補は気安く声をかけられない。
- 警部
警部補が昇任試験に合格すると警部になる。警部は課長や課長代理の役職となり、警部補以下の部下に指示を出す立場である。
スピード出世する人であれば30代半ばで警部になる。巡査から見れば、かなり上の存在となる。
- 警視
ここからは昇任試験ではなく、推薦のような形で大幹部の道を歩むことになる。警視は署長や副署長を務める階級なので、一握りの警察官しかなることはできない。
巡査や巡査部長が警視に直接声をかける機会は少なく、警部補以上を通すのが好ましい。
- 警視正
警視正は大きな警察署の署長や本部の部長クラス。ほとんどの警察官はここまで辿りつくことはない。
- 警視長
ここまで来るとポストが豊富にあるわけではないし、ノンキャリアの警察官では昇任することが難しい階級となる。
お目にかかる機会もそう多くはない。
- 警視監
警察組織のナンバー2。よほど会う機会はない。
- 警視総監
警察組織のトップ。警視庁のトップでもある。
警察官の階級は以上となります。
一般的な警察官であれば、警部まで昇任できれば十分と言えるでしょう。
警察署で勤務していれば警視正までしか会う機会はないと思います。
大幹部に対しては巡査や巡査部長では気軽に声をかけることもできません。
大幹部になにか要件があれば警部補や警部を通すことになります。
階級社会とはそういうレベルのものなので、これから警察官を目指す方は頭の中に入れておきましょう。
階級社会のメリット・デメリット
次は階級社会のメリット・デメリットについて紹介します。
警察官の階級社会は厳格な上下関係が存在するため、良い面もあれば悪い面もあるのが事実です。
階級というのはなかなか馴染みがないものかもしれませんが、警察官ならば常に周りの階級は意識しておかなければいけません。
階級を軽く考えていると「無意識にやっていたことが大きな失礼にあたる」ということにもなりかねないからです。
警察官を目指すならこの辺りの事情を知っておくといいでしょう。
- 階級社会のメリット
①指揮系統が明確になる
警察官の仕事は命に関わる危険な現場や早期の判断が求められる現場というのが珍しくありません。
そのような現場には多数の警察官が出動することになり、多いときだと同じ現場に10~20名の警察官が集結することもあります。
そんなとき、その場に集まった警察官それぞれが言いたいことを言っているようだと現場が混乱してしまい、仕事が円滑に進みません。
時間に追われるような現場であれば尚更うまく物事が進められないでしょうし、大きな失敗に繋がる恐れもあります。
そのため、上位階級にある者が指揮をとることで「誰が責任者なのか」「誰の命令を聞けばいいのか」ということが明確になります。
巡査、巡査部長、警部補がいる現場ならば指揮を執るのは警部補です。
全員がその警部補の指示に従うことで、混乱することなく足並みを揃えることができます。
②上下関係が明確になる
①と似たようなメリットですが、階級が決まっているからこそ上下関係が明確になるのもメリットだと言えます。
階級が定まっていないと、単に先輩・後輩というだけで上下関係が決まりがちですし、誰の指示に従うべきなのかもわかりにくいです。
しかし、階級制度に年齢や期生は関係なく、とにかく上位階級の人の指示に従うということがはっきりしているため、上下関係が明確になります。
例えば、ベテランの巡査長と若い巡査部長がいた場合、若い巡査部長が指揮を執るのが一般的です。
もちろん年齢が離れていれば多少気を遣うことはありますが、巡査長ならば巡査部長の指示には従わなければいけません。
このように階級があるからこそ上下関係が明確になるというのは階級社会のメリットだと言えるでしょう。
- 階級社会のデメリット
①上下関係が厳しすぎる
上下関係が明確だからこそ、上下関係が厳しいというデメリットもあります。
警察官は上司の指示には従わなければいけないという法律の下で勤務をしていますので、上司が間違った判断をした場合でもその指示に背くことはできません。
上司に対して、「こうした方がいいのでは?」「自分はこうやりたいです」と言うこともなかなかできないでしょう。
つまり、階級社会というのは上司の指示に従うことが当然の世界なので、下位階級にある場合は面白味に欠ける部分が出てきてしまいます。
また、上司から厳しい言葉を浴びせられることも珍しくなく、そういったことでパワハラが生まれやすい環境とも言えます。
②上には上がいる
先ほど警察官の階級をすべて紹介しましたが、ご覧になってわかる通り、出世して幹部になれるのは一握りの警察官だけです。
都市部の県警であればそれだけ警察官の数が多いので、出世争いも大企業と似たようなレベルの難易度です。
その大きな要因になっているのは”幹部の定員が決まっている”というところにあります。
一般企業であれば時代に合わせて新しい役職が新設されることがあるでしょうが、残念ながら警察官の新しい階級が増えることは難しいと思います。
もちろん、その中でも警部以上の大幹部になる警察官は一定数いますし、昇任試験の勉強をしていけば可能性は0ではありません。
しかし、実際は多くの警察官が最高でも警部補で警察人生を終えることになります。(巡査部長で定年を迎える人も珍しくない)
そのため、巡査部長や警部補に昇任できたとしても上には上がいるのが階級社会ですので、結局は自分より上の幹部の指示に従わなければいけません。
警察署で勤務していれば署長の指示が絶対ですので、そこの難しさはデメリットと言えます。
階級社会における上下関係とは?
続いて、階級社会の上下関係について解説します。
階級というのは一般企業でいうところの役職と同じようなものですが、警察社会では常に周りの階級を意識しておかないと痛い目を見る場合があります。
その理由としては冒頭でも少し触れましたが、階級差によっては普通に話しかけることすら難しいのが階級社会だからです。
新人警察官の巡査であれば警部補の上司と話をするのがやっとでしょう。
それ以上の上司には巡査部長や警部補を通じて話をすることが多く、「幹部に用事があるから話しかける」というのはあまり良くありません。
そもそも普通に勤務をしていれば警察署の幹部と接する機会はそんなにないですし、あっても自分の部署の課長(警部や警視)くらいまでです。
警察署で勤務をしていると重要な書類の決裁をもらうために幹部と接する機会はある。もちろん、このような機会には警察学校で習った礼式を使っていく。
※決裁…幹部の了承を得る必要があるものは決裁欄に印をもらわなければいけない。警察では決裁を執る機会が多い。
巡査や巡査部長から見れば、警部以上の警察官はなかなか気安く話しかけることができません。
中には部下とフランクに接する幹部もいますが、その逆もいます。
厳しい幹部だと
- 俺が作業をしているときに話しかけるな
- 俺が許可を出すまで話しかけるな
- 巡査部長のくせに俺に話しかけるな
と普通では考えられないような態度をとる幹部もいましたが、割とこれが階級社会の現実です。
階級差というのは想像以上に高い壁となっていますし、厳格に守らなければいけないものでもあります。
また、決裁をとる際には課長や副署長といった幹部の席を回ることになりますが、
- 着席しているときしか不可
- 始業前や終業後は不可(午前9時~午後5時半まで)
- 昼休憩の直前は不可
といった暗黙のルールがある場合もあり、このタイミングが合わないと2時間待たされることも珍しくありませんでした。
決裁をとるために2時間も消費するのは本当に無駄ですが、これも全然あり得ることです。
階級社会の上下関係とはこれほど厳しいものなので、その辺りはしっかり覚えておくといいでしょう。
階級社会の大変なところ
ここからは階級社会の大変なところについて解説します。
警察官の階級や階級差における上下関係について紹介してきましたが、みなさんはどのような感想を持ったでしょうか。
厳しそう、上司が怖そう、上下関係が明確でわかりやすそう…などなど、様々な印象があると思います。
階級についてはメリットがあればデメリットがあるのも事実なのですが、その他に大変なことがあるのも事実です。
それは民間企業と警察官の両方を経験した私だからこそよくわかることですし、比較できることでもあります。
そこで、8年の警察官人生で私が感じた階級社会の大変なところを3つ紹介していきます。
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①雑用はすべて下っ端が行う
会社員と警察官で大きく違ったこと、驚いたことが雑用についてです。
会社員だったとき、雑用はみんなでやるというのが当たり前でしたが、警察官の世界では雑用は下っ端がすべて行うというのが当たり前でした。
例えば、掃除やゴミ出しについては会社では50代の課長ですら若手と一緒に行っていましたし、上司自ら色々と動いてくれていました。
なので、雑用は若手だけがやらされるというものではなかったのですが、警察官では真逆でした。
警察官の場合、雑用を行うのは新人や若手警察官だけです。
上司に掃除をやらせることはあり得ませんし、ほぼ間違いなくやりません。
雑用については新人や若手が率先して行わないと怒られるほどです。
なんでも下っ端の者が動くというのは階級社会ならではかもしれません。
②上司に手間をとらせてはいけない
これは少し表現が難しいのですが、階級社会では上司に手間をとらせないのが基本です。
わかりやすい例でいうと、交番勤務における上司へのコーヒーやお茶出しです。
上司がコーヒーを好む人ならば言われる前にタイミングを見て出す、上司がそのコーヒーを飲み終わったのならすぐに片付ける。
上司に自らコーヒーを淹れさせるのも片付けさせるのも失礼にあたるというのが階級社会の見方です。
また、弁当を注文するならば上司の注文を事前に聞いておく、その上司が弁当を食べ終えたならゴミを捨てるなど、とにかく階級社会では気遣いが必要になります。
民間企業で勤務をしているときはここまでの気遣いは必要ありませんでした。
もちろん、どこの職場でもこのようなことができるに越したことはありませんが、普通の上司なら「自分でやるからいいよ」というのが多いでしょう。
これも階級社会では下の者が動いて当たり前という考えが根付いている証拠だと思います。
③職場の風通しがない
階級社会は上司の指示に従うことが絶対なので、職場の風通しがありません。
警察署内の会議などは幹部のみで行いますので、部下はその決定に従うだけです。
その決定に疑問を感じたり、別のやり方を思いついたりしても意見をすることは許されません。
むしろ若手や下位階級の警察官には発言権すらありませんので、指示に従うことが正解の仕事です。
よって、警察官は創造性が豊かだったり、色々な意見を発信したりしたい人には向かない仕事でしょう。
この辺りは階級社会ならば我慢するしかありません。
自分の考えで行動がしたいならば早く出世するのが最良の手段です。
民間企業の感覚を持ったままだと階級社会は驚くことばかりでした。
警察学校を卒業してから数年は修行だと思っておいた方がいいでしょう。
私自身も会社員から転職して最初は慣れないことが多かったですが、警察官として経験を積んでいくことで慣れていきました。
階級社会は大変なことが多いのも事実ですが、そのおかげで強くなった部分もたくさんありますし、自分にとってはいい人生経験でしたね。
階級を上げるためには?
ここまで警察官の階級社会について様々な角度から解説をしてきましたが、最後に階級を上げるための方法について紹介します。
階級を上げる方法はただ1つ、昇任試験に合格することです。
警察官として階級を上げるためにはこの方法しかありません。
巡査からスタートし、巡査部長→警部補→警部まではすべて昇任試験での合格が必要になります。
昇任試験については高卒と大卒で受験資格が異なりますが、とても優秀な人であれば20代で警部補まで駆け上がります。
20代で警部補になれれば出世コースに乗ったも同然ですので、将来的には警視や警視正といったポジションも見えてくるでしょう。
昇任試験は何十年やっても勉強をしていないと合格することができなので、40代でも巡査長というのは珍しくない。そういった人たちを救済するためにベテラン巡査長は幹部からの推薦で巡査部長になることができる。
昇任試験に合格するためにはコツコツ勉強を重ねていくしか方法はありません。
警察官になると昇任試験対策の参考書を買う機会がありますので、そういったものを毎月買って時間があるときに勉強をしていきましょう。
また、昇任試験合格の可能性を上げるためには勤務評定を高くするということも非常に大事になります。
勤務評定とは1年に1回すべての警察官につけられる評価のことで、勤務態度や検挙実績などが評価の基準となっています。
よって、検挙実績が豊富な警察官は勤務評定が高くなり、昇任試験で加点をもらえることで合格しやすくなるということもあります。
勤務評定がMAXの警察官は翌年の昇任試験でほぼ必ず合格できるくらいなので、日々の仕事を頑張ることが昇任に近づくことは間違いありません。
まとめ
今回は警察官の階級社会について詳しく解説しました。
すべての警察官は階級が決まっており、その階級によって上下関係が決まります。
階級社会というのはメリットがあればデメリットもあるのですが、その受け止め方は人それぞれだと思います。
今回紹介したことをまとめると
- 階級社会の上下関係は絶対、上司の指示には従う義務がある
- 階級社会では上司に手間をとらせてはいけない、雑用はすべて下っ端が行う
- 階級社会であるが故に職場の風通しはない
- 階級を上げるためには昇任試験に合格しなければいけない
ということになります。
階級というのは民間企業ではなかなか経験できることではありませんが、警察官には警察官の慣習があるので、警察官になったなら必ず従うようにしましょう。
警察官は階級社会だと聞きますが、実際どれくらいの上下関係なんですか?