日々、街中をパトロールする警察官が周囲に目を光らせている理由は職務質問を行うためです。
職務質問は警察官が市民に声をかけることによって未然に犯罪を防ぐことができるので、地域課の警察官にとって最大の武器と呼ばれています。
警察官が自身の経験や直感だけに基づいて行うものであるため、警察官にとっては腕の見せ所です。
凄腕の警察官であれば相手の表情や行動を見ただけでいとも簡単に検挙しますし、1日に何件も検挙するケースだってあります。
警察官から職務質問を受けてドキドキした経験を持つ方は意外と多いのではないでしょうか。
職務質問については下記のnoteで詳しく解説しています。
【公式note】職務質問ってなに?拒否したらどうなる?断れる?
職務質問で検挙できる犯罪は様々なものがありますが、一般的によく知られているのは覚せい剤や大麻などの薬物関係だと思います。
警察24時でも職務質問で薬物関係を検挙するシーンはよく放送されていますので、職務質問の代表的な検挙として有名です。
しかし、職務質問で検挙できる犯罪は他にも数多く存在します。
薬物が代表的な事例であることは間違いありませんが、もっと軽い犯罪で検挙される人も珍しくありません。
私自身も警察官時代はパトカーに乗って来る日も来る日も職務質問に明け暮れており、小さな犯罪から大きな犯罪まで多様に検挙を経験しました。
注意しなければいけないのは職務質問で検挙される犯罪について、しっかり知識を持っておかないといつ自分の身に降りかかるかわからないということです。
なにも知らなければ警察官に職務質問を受けた時点で簡単に検挙されてしまう可能性がありますし、知らぬ間に法に触れていることだってあり得ます。
職務質問で検挙される犯罪については意外と知られていないと思うので、少しでも知っておくことで痛い目を見ずに済むでしょう。
そこで、この記事では職務質問で検挙される犯罪について解説し、職務質問での検挙事例についても紹介していきます。
覚えておいて損はない知識ばかりなので、是非参考にしてください。
職務質問をされたら?
まず始めに警察官に職務質問をされたらどうすればいいのか?について解説します。
パトカーとすれ違うとき、なぜかドキッとする感覚があるかと思いますが、どちらかと言えばこれが普通の感覚でしょう。
ドキっとする理由の多くが”警察官に声をかけられたらどうしよう”という感覚があるからだと思います。
私自身も警察官になる前は警察官を見るだけで少し緊張する感覚がありましたし、パトカーとすれ違うときは何か嫌な感覚がありました。
やはり誰もが警察官には声をかけられたくないという考えがあるのだと思います。
確かにいきなり警察官に声をかけられて職務質問をされたらどう対応すればいいのかわからないですし、戸惑う気持ちも無理はありません。
特に構える必要はないのですが、余計な動きや発言をしてしまうとかえって面倒なことになるので、その点は注意が必要です。
警察官が職務質問をする際、少しでも不審な動きがあればその点については徹底的に追及をする。緊張するあまり余計な動きをしないことが大事。
では、実際に職務質問をされたらどうするればいいのか?
巷でもよく言われていることですが、職務質問に対してはとにかく警察官に協力することが大事になります。
最初に言っておくと、職務質問で犯罪が検挙できる確率は1%にも満たしません。
100人に職務質問をして1人検挙できるかどうかというレベルですので、警察官側もそれを承知の上で行っています。
つまり、検挙できなくて当たり前ですので、素直に協力すれば必要以上に長引くことはありません。
特になにもないのであれば、職務質問に協力して数分で終わることがベストです。
職務質問においてやってはいけないことは
- 拒否すること
- 警察官を挑発すること
- 逃げること
です。
警察官としても何もないのであればすぐに職務質問は終わらせたいと考えていますし、余計な時間はかけたくありません。
しかし、警察官も人間ですので、挑発などをされた場合は話が違ってきます。
さすがにそのまま簡単に終わらせることはできませんし、次第に警察官も意地になってきてしまいます。
最悪の場合は応援を呼ばれて複数の警察官に囲まれるという事態にもなりかねないので、職務質問には素直に従って早く終わらせることが最良でしょう。
検挙事例① 銃刀法違反
ここからは実際の検挙事例を紹介していきます。
一般的な会社員でもついうっかり犯してしまうことがある事例ですので、是非参考にして頂ければと思います。
1つ目の検挙事例は銃刀法違反です。
銃刀法違反は一般の方にもよく知られている犯罪だと思いますが、実は色々と気を付けなければいけない点があるのでご紹介していきます。
銃刀法違反はその名の通り銃や刃物を所持していた場合に検挙される犯罪です。
これらのものを所持していればいつでも他人を傷つけることができますし、簡単に命を奪うこともできてしまいます。
そのため、使う使わないに関わらず所持をしているだけで犯罪に該当します。
所持というのは持ち歩くことはもちろんですが、鞄や車のトランクに入れている場合でも同じ所持に該当します。
ただし、こういった危険なものを所持していることが法に触れることは誰もがご存知だと思いますので、実際に銃や刀を持ち歩いている人はほとんどいません。
気を付けなければいけないのはカッターナイフや十徳ナイフといった一般的な道具のようなものでも銃刀法違反に該当する場合があるというところです。
銃刀法違反の構成要件には
- 刃体の長さが6センチを超えるもの
と定義されているため、大きめのカッターナイフであれば十分に該当します。
仕事で使うなどの正当な理由があれば問題はありませんが、不用意に所持していると面倒なことになり得ます。
刃物を所持する正当な理由としては建設業の関係者がノコギリを車に積んでいる、料理人が包丁を持ち歩いているなどが挙げられる。
銃刀法違反の実際の検挙事例を紹介します。
銃刀法違反は犯すつもりはなかったのに検挙されてしまったというケースが意外と多く、誰もが注意をする必要があります。
- バーベキューで使ったナイフが…
夏の時期になると各所でバーベキューを楽しむ方は多いと思いますが、そんなときでも銃刀法違反には気を付けなければいけません。
夜間パトロールをしているとき、尾灯が消えかかっている軽自動車を発見したため、停止を求めて職務質問を開始しました。
車に乗っていたのは若者で、職務質問にも非常に協力的であったため、荷物だけ確認してすぐに職務質問は打ち切る予定でした。
警察官の直感的にも「これは何もないな」というのが正直な感想でしたが、念のため車のトランクを確認するとそこには段ボールが積んでありました。
了承を得てこの段ボールを確認するとそこには料理で使うようなナイフが入っており、見つけてはいけないものを発見した私自身が一瞬固まってしまいました。
「このナイフはなに…?」と若者に確認すると「先月にバーベキューで使ったものです。ナイフだけ降ろすのを忘れていました…」と供述しました。
このような場合、警察官としては見逃すわけにはいきません。
悪質性が低いとはいえ、法律に触れる行為を目にしながら何もしないというのは逆に警察官が犯人隠避という罪に問われてしまいます。
ですので、このようなケースでも警察署に任意同行し、銃刀法違反として検挙しました。
例えば、これが「今からバーベキューに行くところです」という回答であればまったく問題はありませんでした。
これはナイフを所持する正当な理由になるため、銃刀法違反には該当しません。(その他のバーベキュー用品を持っていることが前提)
釣りやキャンプにおいても刃物類の道具を持ち歩くことがあると思うので、十分に注意が必要です。
検挙事例② 軽犯罪法違反
2つ目に紹介する検挙事例は軽犯罪法違反です。
軽犯罪法違反はあまり知られていない犯罪だと思いますが、実は銃刀法と同じく一般人の方が検挙されることもあり得る犯罪となっています。
詳細は割愛しますが、軽犯罪法というのは20以上の罪から構成されており、非常にマニアックな犯罪も規定されている法律になります。
私自身も警察官時代に何度も検挙した経験がありますが、軽犯罪法のすべてを検挙したことはありませんし、それは同僚にもいませんでした。
その1つ1つの罪については警察官経験者でなければ知る機会はないと思います。
軽犯罪法はその名の通り軽い犯罪が規定されているので、罪としては重くありませんが、一般人でも犯す可能性が高いものばかりなので、知っておいて損はありません。
「そんな罪があるの?!」と面白い発見があるのも軽犯罪法の特徴ですので、興味がある方は調べてみてください。
軽犯罪法については知っている人が少ない上、軽い犯罪=警察官としても検挙しやすいという認識がありますので、十分に注意が必要です。
軽犯罪法の法定刑は拘留又は科料と定められており、検挙されたとしても非常に軽い処分となっている。そのため、基本的には軽犯罪法違反で逮捕することはない。
軽犯罪法違反の実際の検挙事例を紹介します。
こちらも先ほどの銃刀法違反と同じで、被疑者に悪気がないパターンですので、誰もが検挙される可能性を秘めています。
- ゴルフクラブ一本で…
パチンコ屋の駐車場をパトロールしていたとき、車内で休憩している男性を発見したため、職務質問をすることとしました。
語弊があるかもしれませんが、パチンコ屋やネットカフェの駐車場というのは悪いことをしている人が駐車していることが多く、警察官にとっては1つのパトロールスポットとなっています。
職務質問をして確認したところ、男性は普通のサラリーマンであり、この日が休日だったことからパチンコを楽しんだ後、車内で休憩しているとのことでした。
免許証を確認してもまったく問題はありませんでしたので、念のための確認で車内を見させてもらうことにしました。
車内を一通り確認し、最後にトランクを確認するとそこにはゴルフクラブ一本が積載されていました。
警察官ならばこの時点で検挙の匂いを感じます。
警察官は常に検挙への嗅覚を持っておくことが大事
ゴルフをやっている人からすればゴルフクラブをトランクに積むことは当たり前のことかもしれませんが、実は場合によっては軽犯罪法に該当することになってしまいます。
なぜならパチンコ屋でゴルフクラブを使うことはありませんし、本人に確認したところ当時1~2週間ほどはこのクラブを使っていないとのことだったからです。
「なぜ使わないのにゴルフクラブを積んでいるのですか?」と質問をしたところ、男性は「降ろすのが面倒だし、何かあったときには護身用としても使えるので…」との供述。
この話を聞き、私は仕方がない面もあると感じましたが、残念ながらこれは軽犯罪法第1条第2号の凶器携帯の罪というものに該当してしまいます。
ゴルフクラブ一本でも十分に殺傷能力はありますので、このような状況・供述では凶器としてみなすことができてしまうのです。
このケースは”ゴルフクラブ一本だけ持っていた”というのがミソで、ゴルフバッグでセットとして所持しているという状況であれば話は違っていました。
男性にそのことを告げるととても驚いた様子でしたが、こんなものでも検挙されてしまうのが軽犯罪法の怖いところです。
もちろん、これも銃刀法と同じく正当な理由があればまったく問題はありません。
ゴルフ場の行き帰りにゴルフクラブを持っていることは当たり前ですし、どこかで素振りをする場合も同様です。
ちなみにこの凶器携帯ははさみや十徳ナイフといったものでも検挙される可能性がありますので、とにかく不要なものは所持しないという意識が大切になります。
検挙事例③ 遺失物横領
3つ目に紹介する検挙事例は遺失物横領罪です。
こちらも警察官時代にはよく検挙してきた犯罪の1つであり、誰もが落とし穴にハマる可能性を秘めています。
遺失物横領罪を簡単に説明すると、”他人がなくしたもの”を横領することで成立することになります。
他人がなくしたものというのは要するに落とし物のことであり、”落とし物を拾って自分のものにしてはいけない”と規定されているのが遺失物横領罪になります。
窃盗罪と似ている部分もあるのですが、遺失物横領罪は盗むというよりかは拾うという行為によって発生することが多いです。
無意識に落とし物を拾うことはないので、故意によって成立する犯罪だと言えます。
日々至るところで落とし物を目にする機会はあると思いますが、落とし物だからといって自分のものにしてはいけません。
なぜなら落とし物というのは必ず持ち主が存在しますので、本来ならば持ち主のところに戻さなければいけないからです。
「落とし物だからいいか」と思われがちですが、これは立派な犯罪となりますので、知らなかったという方は是非覚えておいてください。
落とし物であっても持ち主の所有権はなくならないので、他人がこれを横領することは許されない。落とし物を拾った場合は速やかに交番か警察署に届けよう。
遺失物横領罪の検挙事例を紹介します。
ついうっかり罪を犯してしまう可能性があるものですので、1つ参考にして頂ければと思います。
- 拾ったICカードを財布に…
深夜パトロールをしていると自転車に乗った若者を発見したため、職務質問を行うこととしました。
この若者は大学生と判明し、自宅に帰る途中とのことでした。
話をしてみると好青年であり、職務質問にも協力的でスムーズに話が進みました。
まずは自転車の防犯登録番号を照会し、問題ないことを確認してから所持品検査を行いました。
所持品検査は持っているものを確認させてもらう作業ですが、やるからには財布の中身まできっちりと確認します。
「最後に財布も確認させてもらえますか?」と尋ねると快く応じてくれたため、財布の中身も確認することとしました。
このような所持品検査の場合、どこに着目するかというと一番はカード類です。
クレジットカードやキャッシュカードにはほぼ必ず名義が記載されているので、本人名義以外のカードを持っていないかを入念に1枚1枚チェックします。
当たり前のことですが、他人名義のカードを所持しているということは特別な理由がなければありません。
するとこのとき、財布の中から他人名義の交通系ICカードを発見しました。
「あなたと名前が違うけど、これはどうされました?」と質問を向けると大学生からは「先月に駅で拾って財布に入れっぱなしにしていました…」との供述を得ました。
ついつい落ちているものを拾ってしまうというのは誰にでもあり得ることですが、他人のものを拾った以上は警察署か交番に届ける必要があります。
その場で届けることができなくても数日以内には届けなければいけないでしょう。
残念ながらこのパターンは”他人の落とし物を横領した”ということで遺失物横領罪が成立するため、その後は警察署に任意同行し、必要な捜査を終えて親に迎えに来てもらいました。
経験上、遺失物横領罪は交通系ICカードが多かったですが、その他にもポイントカードやキャッシュカードなどのパターンもありました。
すぐに届けることができないor届ける意思がないという場合は落とし物を拾わないことが最も無難な選択と言えるでしょう。
検挙されたらどうすればいい?
最後にもし警察官に検挙された場合はどうすればいいのか?について解説していきます。
今回紹介した銃刀法違反・軽犯罪法違反・遺失物横領罪は実際によくある検挙事例であり、誰もがちょっとした間違いで検挙される可能性を秘めているものです。
どれも悪意がなく、罪を犯している意識がまったくなかったというのが共通点と言えます。
もちろん、いずれのパターンでも法に触れてしまっているので「知らなかった」では済まないことですし、警察官としては見つけた以上は検挙をして当然です。
”危険なものは持ち歩かない”というのが鉄則ですが、それでも軽犯罪法違反などは知らないうちに犯してしまうというパターンがよくあります。
悪意がないという点から検挙されたら非常にショックを受けることでしょうし、なにより任意同行を求められたところでどうすればいいのかわからないのが現実です。
また、取調室に入ったら普通の人ならば恐怖を感じますし、警察官の言われるがままになってしまう方も珍しくありません。
1つ言えることは検挙された事実に間違いがないのであれば、素直に警察官に従うのがいいということです。
警察官も人間ですので、下手に挑発や暴言を吐くことはおすすめしません。
任意同行はあくまで任意なので、法律上は拒否することが可能。任意の段階で強制的に連行されることはない。ただし、警察官がそう簡単に諦めるわけではないので、実質は応じることになりやすい。
任意同行というのは逮捕されているわけではありませんので、拒否することは問題ありません。
あくまで任意であり、強制力はないからです。
しかし、拒否されたからといって「はい、わかりました」と引き下がる警察官はいませんので、拒否したところですぐに解放されるわけではありません。
むしろ任意同行には従った方が早く、拒否すればするほど無駄な時間が過ぎてしまうでしょう。
任意同行への協力が得られないのであれば、最悪の場合は逮捕も想定することになるので、事実に間違いがないのであれば警察官に協力するのが無難です。
もちろん警察官がすべて正しいわけではないので、主張するところは主張すべきですし、違うことは違うと言うべきです。
警察署に任意同行された後は取調室で事情聴取されることになり、場合によっては供述調書を作成することになります。
いわゆる取調べですが、罪を犯したことに間違いがないのならば素直に応じていけば問題ありません。
そのまま作業は進んでいき、すべて終了すれば自宅に帰ることができます。
その一方、取調べは自らの主張を記録していくものになりますので、事実ではないことがあるならばはっきりと主張していく必要があります。
そのまま虚偽の供述調書が作成されれば、自分の知らないところでどんどん話が進んでしまいます。
いずれにせよ取調室に入れば誰でも恐怖を感じ、”早く帰りたい”と思うものですので、そもそも検挙されるようなことはしないというのが最良と言えます。
このような場合は事前に知識をつけておくことも非常に重要なこととなります。
Shabell.netは管理人の藤田悠希に直接相談できるアプリとなっています。検挙についてはもちろん、警察官や警察学校に関するあらゆる相談が可能です。気になる方は是非チェックしてみてください。
まとめ
今回はこんなことで検挙される?というテーマでいくつかの犯罪について解説しました。
今回の記事をまとめると
- ついうっかりでも検挙されてしまう
- 危ないものは携帯しない
- ”知らなかった”は通用しない
- 検挙された理由が事実なら素直に従う
ということになります。
今回紹介した事例は誰にでも起こり得るもので、悪気がなくても検挙されてしまうことがよくわかって頂けたと思います。
知らないでは済まないことであり、検挙を狙う警察官に見つかれば任意同行されることは免れません。
今回の記事を参考にして頂き、今一度ご自身の持ち物や車に積んである荷物などを見直して頂く機会になれば幸いでございます。
車の中にカッターナイフを置いていただけで警察署に連れていかれそうになりました…。