取調べでカツ丼、張り込みであんパンと牛乳—
少し古いイメージかもしれませんが、かつてドラマや映画で出てくる警察官はこういったベタな設定で描かれることが当たり前でした。
今でもこのイメージが強いのか、警察官時代には「取調べでなんか出してくれるの?」「張り込みするときはなに食べるの?」など、素朴な質問を市民から受ける機会は少なくありませんでした。
この辺りは漫画やアニメで面白おかしく描かれることもあるため、半分本気で信じ込んでいる人がいるのかもしれません。
- 拳銃を撃ったことある?
- キャリアとノンキャリアは仲が悪い?
- 犯人を追いかけてタクシー乗る?
- 寝ずに働くことある?
警察官を題材にしたドラマや映画は数多く存在し、警察官という存在は非常に身近なものだと言えます。
その一方、警察官の仕事については表向きな情報しか発信されず、その裏側は謎に包まれたままです。
さらに警察官の仕事を一般市民が深く知る機会もありませんので、どうしてもイメージだけが先行してしまいがちです。
それが余計に様々な憶測を呼ぶのでしょうが、実際のところはどうなっているのか気になる方も多いと思います。
果たして、本当に取調べでカツ丼が出てくることはあるのか?
張り込みでは牛乳とあんパンが必須なのか?
この記事では警察官に対する素朴な疑問に対して回答し、謎に包まれた警察官の裏側について紹介していきます。
ちょっとした面白い豆知識としても使えるので、是非最後までご覧ください。
なぜ警察官は謎が多い?
まずはなぜ警察官は謎が多いのかについて解説していきます。
警察官はドラマや映画の題材になることが多く、さらに警察24時などの密着番組も放送されるため、市民にとっては馴染みの存在です。
また、子どもが憧れる職業ランキングでも上位に入るので、子どもたちにとっても身近な職業であることは間違いありません。
ですので、多くの方が
- 警察官がどんな仕事なのか
- どういった部署があるのか
- どれだけ大変なのか
といったことを知っているはずです。
これはなにも覚えようとして覚えたわけではなく、誰もが”警察官”のことを自然と覚えていったものだと思います。
警察官を題材にした映画「踊る大捜査線」や人気漫画だった「こち亀」は多くの方が知っている。また、最近ではドラマにもなった「教場」や「ハコヅメ」が話題を呼んだ。
これだけ有名な存在の警察官ですが、その設定は題材によって大きく異なりますし、それぞれのイメージも違います。
どれが本当の警察官なのか?は多くの方が疑問に感じていることでしょう。
例えば、あるドラマで描かれる警察官とまた別のドラマで描かれる警察官は違いますし、ときにはめちゃくちゃな設定の警察官が登場することもあります。
ある意味、それだけ題材として使いやすいということなのでしょうが、警察官のことを知らない人からすればただただ困惑してしまいます。
なので、実は知っているようで知らないのが警察官であり、謎に包まれているのが警察官なのです。
また、警察官は重大な機密を扱う仕事が多いため、あまり裏側が明かされることがありません。
警察24時などはあくまで表向きな情報ばかりなので、仕事の核心に迫られる機会も少ないです。
警察官の裏側については警察官を経験した者にしかわからないでしょう。
実際、私自身も警察官を経験してみて真相がわかったことは数え切れません。
そのため、市民からすれば「どれが本当の警察官?」と思われることは多いでしょうし、「実際のところはどうなの?」と謎が多いのも特徴なのです。
警察24時はリアル?
最も身近な警察官の特集番組といえば警察24時でしょう。
全国の警察官に密着し、昼夜を問わず奮闘する様々な部署の警察官の姿をお茶の間に届けています。
警察24時は普段なかなか見ることができない捜査の裏側も覗くことができますので、警察24時を見て”警察官になりたい”と思った方も多いと思います。
私自身も警察官になる前はよく警察24時を見て勉強していましたし、警察官になったときの姿をイメージしていました。
毎回必ず見るという警察24時ファンの存在も珍しくはありません。
そんな警察24時ですが、果たしてどこまでリアルなのか?
元警察官の視点で紹介していきます。
余談ですが、警察24時に知っている同僚や上司が出てくるとちょっと嬉しい気持ちになるのは警察官あるあるです(笑)
- 警察24時はファイプレー集
警察24時に出てくるパトカーは簡単に職務質問で犯人を検挙しますが、これを真に受けてはいけません。
警察24時で放送されるパトカーの活躍はあくまでファインプレー集であり、毎回あのように検挙できるわけではないからです。
実は職務質問で犯人を検挙できる確率は1%もありません。
1,000人の市民に職務質問をして、そのうちの1人を検挙できるかどうかくらいのレベルです。
職務質問というのはそれくらい難しく、ハードルが高いものなのです。
「自分も警察官になったら次から次へと検挙する」と意気込むことは大事ですが、現実は非常に厳しいものであることは覚えておきましょう。
- 過酷な仕事はリアル
警察24時では刑事が事件の捜査に挑む場面が放送されることも多いですが、どれも一筋縄ではいきません。
事件発生から犯人逮捕に至るまでは険しい道のりであることがよくわかります。
中でも長時間の張り込みや不規則な勤務は刑事ならではですが、画面越しでもその過酷さは十分伝わっていると思います。
その他にも早朝や深夜でも構わず仕事をしなければいけないのが警察官なので、警察24時を見ていれば簡単な仕事ではないのがわかるでしょう。
そういった面での警察官のリアルを伝えてくれるのが警察24時でもあります。
警察官は昼夜を問わず当たり前のように働いているが、肉体的にも精神的にも負担になることは間違いない。警察官はなによりもタフさが求められる。
- 様々な部署がある
警察24時を見ていると「警察官ってこんなにたくさんの部署があるのか」という感想を持つことも少なくありません。
職務質問であればパトカー、取締りであれば白バイ、電車内の痴漢や盗撮の検挙であれば鉄道警察隊など、各部署で取り扱う仕事が違います。
それだけ警察官の仕事は幅広く、活躍する場も多いということです。
部署を異動するのは簡単ではありませんが、それぞれ目指す道があるというのは仕事のやりがいの1つと言えるでしょう。
警察官志望者が警察24時を見ていれば「○○の仕事をしてみたい」とよりイメージを深めることができます。
「警察官ってこんな仕事まであるの?」ということも少なくないので、警察24時は警察官の仕事を知るいい機会だと思います。
【最初の2年が勝負!】警察官になって希望の部署に入れる確率はどれくらい?
- 取締りのリアルな現場
警察24時を見ていて勉強になると思うのは白バイ隊員による取締りです。
華麗に白バイを操り、鋭い感覚で違反者を見つける白バイ隊員ですが、毎回違反者が素直に認めてくれるわけではありません。
ときには興奮して反抗してくる違反者もいるので、捜査と同じで取締りも一筋縄ではいかないものです。
中には女性の白バイ隊員が違反者から暴言を吐かれるシーンもあるので、白バイに乗っているからといって簡単に取締りができるわけではないことがわかります。
世の中は警察官に対して好意的な態度をとる人だけではありませんし、敵意を示されることも珍しくありません。
警察官になったらこういった場面に遭遇するということは1つリアルな映像だと思います。
【警察官の仕事】白バイ隊員になるためには?実例も交えて白バイ隊員になる方法を徹底解説
警察官志望者なら警察24時は見ておいて損はありません。
良いところばかりが映し出されていることもありますが、多くが警察官のリアルです。
警察24時は本物の警察官に密着する番組なので嘘はありませんし、やらせもありません。
ドラマや映画とはまったく違うので、十分リアルな映像だと思います。
そのため、警察24時は警察官の仕事を知るためにはうってつけの番組だと言えます。
取調べでカツ丼は出てくる?
さて、本記事の本題である取調べでカツ丼は出てくるのか?について解説します。
取調べ中に刑事が「カツ丼でも食って落ち着け」と犯人を諭すシーンはベタな警察ドラマによくあるワンシーンですね。
結論から言ってしまうと取調べでカツ丼が出てくることはあり得ません。
みなさん大体予想通りでしょうが、取調べでカツ丼が出てくるのはドラマの世界だけです。
現実世界ではカツ丼が出てくることは絶対にありません。
その理由について解説します。
【note】痴漢冤罪で逮捕…任意同行には応じる?取調室ではどのように対応するべき?
- 取調べは飲食禁止
そもそも取調べ室内は飲食が禁止です。
なので、取調べ中に何かを食べるということは一切できません。
最低限の水分補給は出来ますが、それも警察署で用意された水かお茶を飲む程度です。
例えば、取調べが正午にあろうが、午後7時にあろうがそのタイミングで食事が出てくるということはありません。
唯一、可能性があるとすれば長時間の取調べになった場合に取調べを中断して食事の時間になるときです。
これは食事も与えずに長時間取調べを続けることは自白の強要に繋がりかねないためです。
ただし、これも勾留中であれば留置場に戻って支給の弁当を食べる程度なので、カツ丼が出てくることはありません。
- 取調べのルールは厳格
警察官が行う取調べは厳格なルールが定められており、それに反する行為は不適切な取調べとなります。
不適切な取調べは裁判にも影響してしまいますので、取調べを行う警察官は非常に神経を使うものです。
これは取調べ監督制度という制度に基づいており、自白の強要の禁止、身体的接触の禁止など、細かくルールが定められています。
警察官が取調べの相手に向かって大声を出すことも禁止されていますし、机を叩いて威圧するなどの行為も禁止です。
取調べにはこのようなルールがあるため、簡単に食事を提供することもできません。
万が一、食事を提供すれば自白に誘導していると見られてしまい、取調べ監督制度に違反することとなってしまいます。
こういったルールがあることからも取調室でカツ丼は出すことができません。
- 自由に食事はできない
留置場に収容されている場合は自由に食事をとることができません。
留置場というのは起床から就寝まですべてスケジュールが決まっており、時間通りに行動することが求められます。
所持金の中から宅配でお菓子や間食を購入できる場合もありますが、3食の食事の時間はきっちり決まっています。
また、留置場に収容されている場合は基本的に官弁と呼ばれる業者の弁当を食べるのみで、これ以外に好きな食事をとることはできないのです。
官弁は業者によってはとても不味く、冷や飯であることもあります。
こういった食事をとることは留置場ならではなので、大半の人が「もうこんなところには戻りたくない…」と思うものでしょう。
よって、取調べだけでなく、そもそも身柄を拘束されている場合はカツ丼などのおいしい食事をとることすらできないのです。
今では考えられないが、一昔前の取調べなら喫煙することが許されていたし、食事をとることも黙認されていた。昭和の警察ならば取調べでのカツ丼は存在していた可能性が十分ある。
というわけでみなさんの予想通り、取調べでカツ丼が出てくることはありません。
取調べ室は非常に厳格なルールが定められており、今では重大事件に限っては取調べの録音録画も実施されています。
昔の取調べであれば自白を強要することや物騒なことを言って脅すといったことは当たり前に行われていましたが、今ではそのようなことは一切禁止されています。
よって、取調べ中は食事すらすることができないので、残念ながら取調べを受けてもカツ丼は出てこないというのが結論になります。
張り込みであんパン?
続いて、張り込み中にあんパンを食べることはあるのか?について解説します。
犯人を追う刑事があんパンと牛乳を手に持つシーンはベタなワンシーンとして有名です。
こちらも結論を先に言ってしまうと、半分本当で半分嘘ということになります。
実は張り込み中のあんパンというのは100%あり得ない設定ではないのです。
張り込みというのは大きく分けると
- 犯人を逮捕する直前の張り込み
- 犯人の行動を確認する張り込み
の2種類あり、それぞれで状況が異なります。
まず①の犯人を逮捕する直前の張り込みはまさに令状を執行する直前ということになりますので、その場は高い緊張感に包まれています。
犯人が自宅にいることを確認できれば後は踏み込んで令状を突き付けるだけです。
よって、このような状況ではあんパンを食べている場合ではありません。
現場を指揮する上司からのGOサインが出ればすぐに動かなければいけないため、臨戦態勢の中であんパンを食べている余裕はないでしょう。
犯人を逮捕する直前の張り込みは非常に緊張感が高い。「犯人が逃げ出したら」「犯人が抵抗したら」ということも想定しておかなければいけない。
一方、②の犯人の行動を確認する張り込みはよほどのことがなければ急展開は起こらないので、そこまで緊張感は高くありません。
あくまで犯人の行動を確認することが目的であるため、居眠りすることさえなければ難しい仕事ではないでしょう。
そのため、このパターンの張り込みでは軽食を持ち込んで張り込みをするということは珍しくありません。
長時間の張り込みになることも予想されるため、軽食の他に缶コーヒーやモバイルバッテリーを持ち込んでいる警察官もいます。
実際、私自身の経験でもこのような張り込みは2~3時間どころではなく、5~6時間に及ぶことがあったため、手ぶらでやっているととても苦痛です。
目標である犯人の挙動から目を離すことは許されませんが、目を離さなければある程度のゆとりをもって張り込みをすることができます。
よって、張り込み中にあんパンと牛乳を手にしているというベタなシーンはあながち嘘ではありません。
実際に警察官になったらこのような設定には遭遇することがあると思います。
ただし、②の張り込みであっても身動きがとれない張り込みや車のエアコンをつけられない張り込みなど、場合によっては過酷な張り込みになることもあります。
そのほかのQ&Aまとめ
次に警察官に関する質問でよく聞かれることについて回答していきます。
警察官になると誰もが経験するものですが、警察官は仕事中のみならずプライベートにおいても色々な質問を受ることになります。
警察官はイメージで語られることが多いので、「あれって本当なの?」「あのシーンって…」など、周りの人たちも疑問に思っていることが多いのです。
また、警察官の世界は謎に包まれていることも多く、身近に警察官がいればついつい色々と聞きたくなってしまうものでしょう。
警察官を経験すれば話のネタには困りませんが、このようにあれこれ聞かれて疲れてしまうこともあります。
もちろん守秘義務に関することを話してはいけませんので、その辺りの線引きはしっかりしておく必要があります。
そんな中、実際によく聞かれる質問について真面目に回答していきます。
拳銃の訓練は警察学校で必ず行われますので、何度も撃ったことがあります。
また、警察学校を卒業してからも年に1、2回は拳銃訓練があるので、警察官であるうちは定期的に射撃することになります。
さすがに現場で拳銃を撃ったことはありませんが、警察官をやっていればいつ拳銃を使う機会が訪れるかはわかりません。
拳銃の感想としては発射したときの反動があって結構疲れるという印象です。
【Amazon】マンガのための拳銃&ライフル戦闘ポーズ集犯人を追跡していた刑事がタクシーに乗って「前の車を追ってくれ」というシーン。
これも警察ドラマでよく見られるワンシーンだと思います。
私自身はタクシーには乗ったことはないですが、電車に乗って犯人を追跡したことは何度もあります。
犯人を見つけた場合は絶対に逃がしてはいけないので、どんな手段を使ってでも追いかけなければいけません。
そのため、犯人を追いかけてタクシーに乗るということは全然あり得ることだと思います。
これはこち亀の影響が大きいのでしょうが、ミニパトに乗るのが女性警察官と決まっているわけではありません。
交番ならミニパトが配備されているところもあるので、男性警察官でも乗る機会は多いです。
実際、私が一番最初に配属になった交番もミニパトがあり、勤務中は常に使っていました。
女性警察官だからミニパトに乗るということではありません。
【Amazon】現役警察官の事件現場ナイショ話 (バンブーコミックス エッセイセレクション)女性警察官は基本的に男性警察官とのペアになりますが、場合によっては女性警察官だけでパトロールをすることもあります。
ただし、この場合でも危険な現場には飛び込んでいかなければいけないので、あまりいい体制だとは言えません。
女性警察官だけで乱闘の現場を収めることは難しいでしょうし、どうしても力関係で不利になってしまう場面もあります。
個人的には女性警察官のペアでパトロールをすることは非常に危険だと思います。
警察官の仕事は昼夜を問わず働く必要があるため、寝ずに仕事をすることは当たり前です。
特に忙しい警察署の刑事課や地域課であれば次から次へと事件が入るため、仮眠どころか休憩すらとれない日もあります。
警察官になるのであればそういった覚悟は絶対に必要ですし、耐えられるだけの体力も必要です。
一般的な仕事とは大きく異なることを覚えておきましょう。
【Amazon】警察官という生き方 仕事と生き方 (イースト新書Q)警察官の仕事はときに非常に危険な場面に遭遇するため、命が保証されている仕事ではありません。
刃物を持った相手との対峙、大きな国道での交通整理などの現場では一瞬の油断が命取りになります。
実際、私自身も何度か命を落としそうになったことはあります。
警察官をやっていれば必ずそういった場面には遭遇することになるので、常に緊張感を保持しておくことが大事になります。
警察官を経験するとこのような質問を受ける機会は数え切れません。
周りからすればそれだけ気になる職業であるということでしょうし、興味を持たれている証拠だと思います。
警察官は身近な存在である一方、謎に包まれていることが多いので余計に気になるのかもしれません。
事実、警察官を辞めた今でも周りからは警察官について色々聞かれることがあります。
警察官になれば質問をされることが多くなることは覚えておきましょう。
まとめ
今回は世間で語られる警察官の謎や都市伝説について解説してきました。
今回の記事をまとめると
- 取調べでカツ丼は絶対に出てこない
- 張り込みであんパンは半分本当
- 警察24時が一番リアル
- ミニパト=女性警察官ではない
ということになります。
警察ドラマで描かれる警察官は少々誇張されて表現されていることがあり、実際にはあり得ないシーンも多々見られます。
そういった中で世間からは勝手に警察官のイメージが作られていくので、あることないことがどんどんイメージだけで先行していってしまうのが現状です。
そのため、警察官を経験すれば現役時代はもちろんですが、退職後も周りから色々と質問を受ける機会があります。
それだけ周りから興味を持たれているということですし、警察官が謎に思われている証拠でしょう。
質問をされた際に答えることは問題ありませんが、守秘義務に関することまで言ってしまわないように気を付ける必要があります。
今後、警察ドラマや映画をご覧になる際に少しでも本記事が参考になれば幸いです。
ドラマや映画で描かれる警察官の世界はどれくらいリアルなんですか?