警察学校は一人前の警察官を目指すための養成所であり、日々決められたカリキュラムをこなしていく場所です。
座学の授業はもちろんですが、運転訓練や術科訓練(柔道や剣道)なども行い、警察官として必要な知識や技術を学んでいきます。
当然のことながら警察官は法律の知識を持っていないと働けないため、授業は法律に関するものが中心になります。
警察官は法律に基づいて仕事を行うことになりますので、逮捕をするにしても取締りをするにしても法律の根拠を把握していないと執行できません。
また、警察官は昼夜を問わず働くことになるため、体力の向上も欠かすことはできません。
つまり、警察学校は現場で働くための準備期間だと考えておくといいでしょう。
とは言っても警察学校でどんな授業が行われるのか具体的にイメージすることは難しいかもしれません。
多くの方が不安に思うことは
- 法律を勉強したことがない
- 体力に自信がない
- 授業についていけるかわからない
などということだと思いますが、1つ安心して欲しいことは入校者全員が同じ気持ちであるということです。
自信満々で警察学校に入校する人はほとんどいない。誰もが不安を抱えて門を叩く。
法学部出身だからと言って警察学校で優秀な成績を収められる保証はなく、どんな体力自慢だとしても1位をとれるわけではありません。
もう1つ安心して欲しいことは警察学校は誰でも理解できるようなレベルで授業が行われるため、事前に勉強をしておく必要はありません。
トレーニングをする機会も多くありますが、慣れていけば大きな問題はありません。
私自身が警察学校でどんな授業が行われるのかほとんど知らない状態で入校しましたが、上位の成績で卒業することができています。
少しでも不安を払拭してもらえるようにこの記事では警察学校で行われる実際に行われる授業について紹介し、警察学校での1日をどのように過ごすのかについて解説します。
都道府県によって若干の違いはあると思いますが、参考にしてもらえれば幸いです。
目次
警察学校ではカリキュラムが決められている
警察学校で行われる授業についてはすべてカリキュラムが決められています。
時間割については授業の都合によって流動的なため、大体1週間先の時間割までは決まっている感じです。
そのため、普通の学校と同じように授業と授業の間には休憩時間がありますし、昼休憩の時間も設定されています。
ただし、警察学校は分単位での行動が求められるため、休憩時間だからと言ってダラダラ過ごすことはできません。
基本的に休憩時間は次の授業の準備をする時間ですので、慌ただしいことが多いです。
ちなみに授業や訓練を欠席することは周りから遅れることになってしまうので、日頃から体調管理には十分気を付けましょう。
遅れれば遅れるほど自分自身が困るだけです。
警察学校では座学と実技の授業がある
まず警察学校で行われる授業は大きく分けると座学と実技の2つに分けることができます。
座学は皆さんが今まで中学校や高校で受けてきた授業と同じで、教場(教室)で授業を受けるものです。
警察学校ではそれぞれの授業を担当する教官が決まっているので、担当の教官が教場まで来て授業を行います。
1限の授業は80分です。
科目で言うと刑法、刑事訴訟法、警察行政法、交通、捜査など法律の基礎的な知識から実際の現場で必要になる実践的なことまで勉強します。
- 刑法
例えば窃盗罪や強盗罪など、○○罪という法律について学ぶのが刑法。どんなことが犯罪になるのかを知っておかないと仕事にならない。
- 刑事訴訟法
現行犯逮捕、緊急逮捕、令状請求など、法律の手続きについて学ぶのが刑事訴訟法。警察官ならば逮捕の要件は必ず知っておかなければならない。
- 警察行政法
泥酔者や精神錯乱者に対する保護や拳銃の使用要件など、警察官の実務的な知識を学ぶのが警察行政法。警察官がどこまで権限を持って仕事ができるのかを勉強する。
- 捜査
主に書類の書き方や事件捜査の仕方について学ぶ授業。刑事経験が豊富な教官から実践的なことを勉強する。
このほかにも警備、生活安全などの実務的な授業があります。
いずれも経験豊富な教官が教えてくれるので、まったくの法律初心者でも問題ないです。
というよりもほとんどの人が初めて法律を学ぶことになるので、授業をしっかり聞いていれば困ることはありません。
中でも刑法や刑事訴訟法、警察行政法は警察官として絶対に知っておかなければいけない知識となります。
警察学校を卒業して現場で働くようになれば、警察学校を卒業したばかりとはいえ一人の警察官として働かなければいけません。
急を要する現場で難しい判断をしなければいけない場面に遭遇することだってあります。
警察学校は法律初心者でも問題ありませんが、先のことを意識しながら授業をしっかり受けて自分の知識(武器)とすることが必要です。
実技の授業は実際に身体を動かす授業や訓練が多いです。
教場ではできない授業のため、運動場や体育館、武道場に移動しますし、その授業に合わせた服装に着替える必要もあります。
科目で言うと術科(柔道か剣道を選択+逮捕術)、拳銃、体育、警備、救急法、教練などがあります。
実技は体力を使う授業が多いですが、慣れていけば問題ありません。
体力が不安でついていけず辞めていく人はいないので安心してください。
- 術科
警察学校では必ず柔道か剣道を選択し、それに加えて全員が逮捕術という術科訓練も行う。
柔道と剣道は警察学校を卒業してからも警察官である以上は定期的に訓練を行うので、警察学校でしっかり訓練を積んでおきたい。
- 拳銃
警察学校に入校してある程度の期間が過ぎると、射撃場において拳銃の訓練を行う。実技試験もあるが、拳銃の腕はかなりセンスが問われるものである。
- 体育
警察学校の体育の授業はひときわハードなものとなる。ひたすら走る、ひたすら筋トレするなど基礎体力の向上を目指す。
- 教練
警察官の礼式を徹底的に学ぶ。右向け右、回れ右など全員が乱れることなく動作できるようにならなければいけない。
実技の授業はやはり体力が必要になります。
特に術科は柔道・剣道・逮捕術を行いますので、授業が終わる頃にはへとへとになりますし、術科のあとに座学の授業があれば眠くなってしまうことも多々あります。
術科はみんなが嫌がる授業ですが、術科は警察署でもよく訓練が行われますので、ある程度できるようにしておかないと後々困ります。
もちろん柔道も剣道もほとんどの者が初心者ですので、初心者に合わせたレベルで教えてもらえますし心配はいりません。
警備の授業では、機動隊と同じように大きな盾や装備品をつけた状態でランニングをすることがあります。
この警備の授業では倒れて脱落する者が続出しますし、ひどいときだと脱水症状になる人もおり、救急車で病院に運ばれた人もいました。
警察学校に入校するまでにある程度の体力はつけておきましょう。
座学|刑法、刑事訴訟法など
それぞれの授業の科目について詳しく紹介していきます。
- 刑法
刑法の授業は”刑法235条 窃盗罪”や”刑法199条 殺人罪”など、刑法に規定されている犯罪について学びます。
警察官は刑法に定められていることに沿って仕事をしますし、どんなことをしたら何罪になるのかということを知っていないとそもそも犯人を検挙することができません。
刑法は警察官として最も大切な知識の1つとなります。
- 刑事訴訟法
刑事訴訟法は”現行犯逮捕”や”捜索差押え”など、刑事手続全般について定められており、どういう状況なら犯人を逮捕できるのか、令状はどのような場面で使うのかなどを学びます。
刑事手続を間違えてしまうと憲法違反や人権侵害に繋がることもあり、刑法と並んでとても大事な知識となります。
- 警察行政法
警察行政法はわかりやすく言うと”警察官がとるべき行動”や”警察官ができる措置”について定められた法律のことです。
実例でいうと警察官は路上で寝ている酔っ払いを保護する機会が多々ありますが、実はこの酔っ払いを保護することも警察行政法という法律に基づいて行っているのです。
さらに職務質問についての規定も警察行政法で定められています。
他にも様々な規定があり、現場に直結する知識ばかりですので、警察官として仕事をする上では絶対に知っておかなければいけない法律です。
警察行政法は警察官がとるべき措置について規定されており、警察官が行うべき義務が規定されているものもある。つまり、義務ならば必ず行わなければいけないため、知っておかないと大きな問題になることもある。
- 実務科目(地域、交通、捜査、生活安全など)
刑法などの法律の授業に加え、交通や捜査など実務的なことを学ぶ授業もあります。
これはその名の通り、交通なら交通に関する法律や実務、捜査なら捜査手法や刑事事件に関する授業です。
警察学校を卒業すると最初の2年間は必ず地域課での勤務となりますが、地域課での勤務は多種多様な通報に対応するため、あらゆる知識を持っていなければいけません。
そのため取締りについては交通、書類の作成については捜査など、それぞれの科目で実践的なことを学びます。
実技|術科、拳銃、警備など
次に実技の科目について詳しく紹介していきます。
- 術科(柔道、剣道、逮捕術)
術科の授業は必ず柔道か剣道のどちらかを選択して行います。
術科については不安も大きいかもしれませんが、ほとんどの人が初心者ですので、そこまでの心配はいりません。
私もまったくの初心者でしたが、柔道を選択して最終的には初段を取得することができました。
また柔道・剣道・逮捕術は警察署に赴任してからも日々訓練がありますので、警察官である以上はずっと続けていかなければいけないものです。
柔道か剣道については適当に選ぶのではなく、先のことまで考えて選択することをオススメします。
さらに術科は柔道・剣道に加えて逮捕術の授業もあります。
逮捕術は警察独自の武術で、柔道と剣道がミックスされたようなもので、犯人の制圧方法などを学びます。
術科の授業は相手と真剣勝負になりますので、どうしても怪我が付きものになります。実際に骨折や脱臼など大怪我をしてしまう人もいるため、怪我には十分気を付けましょう。
- 拳銃訓練
拳銃訓練は拳銃と実弾を使って、実際に拳銃を発砲する訓練となります。
警察官をやっていて現場で拳銃を使用する機会は一生に一度あるかないかですが、訓練をしておかなければいざというときにできません。
警察官でなければ拳銃を発砲する機会はないのでとても貴重な経験ですし、拳銃が発砲したくて警察官になったという同期もいました。
拳銃はかなりセンスが大事になるので、いきなり高得点を取る人もいますし、まったく的に当たらない人もいます。
- 体育
一般的な学校と同じで、体育の授業もあります。
個人的な話をすると、体育の授業は警察学校で最も憂鬱な授業でした。
なぜならなにをするのかわからない+かなり体力を消耗する授業だったからです。
実際には1限ひたすら走る、ひたすら筋トレをするといったものばかりでした。
- 救急法
救急法の授業はAEDの使い方や心臓マッサージなどについて勉強します。
人形を使って実践的な救急法を学び、最終的には実技試験も行われます。
現場では負傷者を救護する場面もありますので、もしものときのために習得しておかなければいけません。
- 教練
教練の授業は敬礼の正しいやり方や回れ右、右向け右など警察の礼式について学ぶ授業です。
機敏な動作が求められますし、覚えることも多いです。
さらに集団で行うものなので、周りと完璧に呼吸を合わせるのも難しいところです。
そのほか教練は通常点検や特別点検と呼ばれる審査も受けなければなりません。
これは警棒の構え方や拳銃の構え方、警察手帳の提示の仕方など警察官ならば身に付けておかなければいけない礼式を幹部に点検されるもので、警察署に赴任してからも毎月行われます。
ですので、教練は警察官ならば必ず習得しておかなければならないことですし、覚えておかないと警察学校を卒業してからも困ることになります。
法律の知識は必ず覚えておかなければいけない
今一度お伝えしたいことは、座学で学ぶ法律の知識は警察官ならば必ず覚えておかなければいけないということです。
警察学校に入校した時点で既に警察官という身分になりますが、警察学校にいるうちは授業で学んだことを生かす場面はありません。
なぜなら警察学校の外に出て仕事をすることがないからです。
しかし、警察学校を卒業して警察署に赴任したとき、現場では”警察学校を出たばっかだから”という言い訳は通用しません。
一般市民から見れば、ベテランの警察官でも警察学校を卒業したばかりの警察官でも同じ警察官にしか見えません。
よって、”あれもわかりません、これもわかりません”では市民にも大きな迷惑がかかってしまうのです。
警察官の仕事をしていると市民から「これっていいの?あれは大丈夫なの?」と質問を受ける機会がたくさんある。そんなとき、知らないことを適当に答えてしてしまうと大きな問題に発展することがあるので要注意。
間違ったことを市民に伝えてしまった場合、後に「あの警察官が大丈夫って言ったんですけど?!」という問題となり、簡単に訂正することもできなくなってしまう。
知らないことは「上司に確認しますor確認して回答します」と返事をしておけばOK。
警察署に赴任してからはしばらくは上司とともに行動しますが、現場によっては上司と離れてしまうこともあります。
そんなとき、警察学校を卒業したばかりのあなたの目の前に犯人が現れることもあり得ます。
ではその犯人を何罪で逮捕するのか?その法的根拠はなにか?
そんな判断を瞬時にしなければいけない場面に遭遇する可能性は決して0ではありません。
難しい話ですが、結局は警察官ならばこのような現場に遭遇することもあるので、警察学校での授業がとても大事だということです。
警察官というのはこういう仕事です。
法的根拠に基づかなければ仕事ができませんし、やるべきことをやらなければ重大な問題に発展してしまいます。
逆に言えば、法律の知識があればそれはとても大きな武器になるので、警察学校ではしっかり知識の習得に務める必要があります。
警察学校では定期試験も行われる
一般的な学校と同じで、警察学校でも定期試験が行われます。
それは座学の授業についても実技の授業についても同じです。
座学の授業ならば筆記試験になりますし、実技の授業ならば実戦形式の試験となります。
いずれも授業で学んだことしか試験に出ませんので、授業をしっかり聞いて勉強していれば悪い点数をとることはありません。
それでも実技の実戦形式のテストはできる人とできる人の差がどうしても現れてしまいます。
例えば柔道の試験なら初心者同士の対決となるため、どうしても筋力の強い者が勝ちやすい。そのほか体育の体力試験は体力がなければ点数が低くなってしまうし、拳銃の実技試験は何度やってもうまくできない者はいる。
しかし、警察学校では給料が発生していますので、試験で低い点数や赤点をとることは許されません。
私も教官に口酸っぱく言われたことを鮮明に覚えています。
「お前たちは税金をもらって勉強させてもらっている。赤点をとるやつは給料泥棒だ」
確かにその通りです。
定期テストである程度の結果を出さなければ、それは給料をもらっているのに仕事をしていないのと同じことになってしまいます。
ましてや給料は税金で支払われていますので、警察学校では勉強することが仕事になっているのです。
ですので、赤点をとった者にはペナルティが科せられることがあります。
私の同期で赤点をとった者は、再試験のためにもう1度しっかり勉強をしなければいけないので、週末になっても家に帰らせてもらうことができず、土日も警察学校に残って勉強をやらされていました。
周りの同期が週末は家に帰る中、警察学校に残って勉強するのはとても辛いことです。
ちなみに警察学校の筆記試験では数学や理科はありません。
基本的には”刑法○条について書け”や”この場合の逮捕手続はなにか”などひたすら暗記をして書く問題が多いです。
ですので、暗記するものがほとんどであることを覚えておいてください。
すべてが点数化され順位が決まる
警察学校で様々な試験が行われると紹介しましたが、試験の結果はすべて点数化されます。
また試験の結果だけでなく、普段の生活態度や仕事ぶりなどの評価も加えられ、すべてが点数化された上で個人順位が決まります。
残酷なことですが、クラスの中で自分はどれくらいの順位なのかがはっきりとわかってしまうのです。
ですので、警察学校の同期は大切な仲間でもありますが、ライバルでもあります。
術科の実技試験では普段仲良くしている同期と対戦することもある。そのときは勝つか負けるかで大きく変わってくるため、私情を挟まず真剣勝負をしなければいけない。
この警察学校の順位がどんなことに関係してくるかというと、まずは配属先です。
成績上位の優秀な者ほど大きな警察署に配属される傾向にあります。
大きな警察署は事件も多く忙しいため、優秀な人材が必要だからです。
それに加え、警察官としての評価も警察学校の成績が影響してきます。
上位の成績優秀者は卒業するときに特別な表彰を受けることができます。
この特別な表彰は誰でも受けられるものではないので、表彰されると警察官としての評価ポイントがアップします。
この評価ポイントが高ければ高いほど、後の昇任試験や希望の部署への配置転換に有効になってくるのです。
つまり、警察学校からすでにあらゆる競争が始まっているのです。
警察官の仕事はある意味残酷なもので、評価がすべてです。
どれだけ仕事ができても、評価が低ければなかなか出世はできませんし、希望の部署にもいけません。
将来のことまで考えるならば、警察学校では一生懸命頑張って優秀な成績を目指すべきです。
後々のことを考えれば警察学校で頑張って損することは絶対にありません。
私もこの辺の裏事情まで知っていればもっと頑張っていたのにと後悔している部分もあります。
まとめ
警察学校で行われる授業について紹介しました。
警察学校で行われる授業には大きく分けて座学と実技の授業があり、いずれも定期試験があるため1回1回の授業が大切になってきます。
特に座学で学ぶ法律の知識は警察官として知っておかなければ困るものなので、現場に出るまでにしっかり勉強しておきたいところです。
試験で悪い点数をとるとペナルティが科せられることもありますし、順位も低くなってしまうので、そうならないためにも定期試験ではある程度の点数がとれるようにしましょう。
警察学校に入校した時点で警察官としての競争が始まっているということを意識すると、警察学校での生活も意識が変わってくると思います。