私の警察学校での実体験をお送りする【実録警察学校】の第14話です。
第13話は下記のリンクからご覧ください。
【実録警察学校#13】念願の初外泊 まさかの奇襲攻撃を受ける
前回は警察学校に入校して約1か月の生活を乗り切り、初めての外泊を迎えた瞬間でした。
しかし、外泊中に門限を破る大失態を犯し、電話で斎藤教官から雷を落とされる展開に。
そんな状況で日曜日となり、足取り重く警察学校に戻ることとなりました。
戻りたくない…
警察学校に戻る日がやってきた。
金曜の夜、警察学校の生活から解放され、これまでに味わったことがない幸福感を抱きながら自宅に戻った。
誰にも怒られない安心感、個人で勝手に行動できる解放感、好きなものを食べられる満足感…
コンビニで買い物をするくらいのことがどれだけ幸せに感じただろうか。
こんな当たり前のことが当たり前でない警察学校の生活はやはり特殊だ。
このとき感じた解放感は一生忘れることがないだろう。
しかし、ありきたりな表現だが、こんな幸せな時間は本当に一瞬だった。
現実は残酷なものだ。
ひとまず彼女にも無事に会えたのでよかったが、警察学校から奇襲攻撃を受けてなんとも後味が悪い再会だった。
休日なのに斎藤教官から雷を落とされ、会わせる顔もない。
「どれだけ怒られるのか…」
幸せな時間から一転、奈落の底へと落とされた。
警察学校に戻らなければいけないが、本当に戻りたくない。
斎藤教官に怒られているから余計に戻りたくない。
この日はすべての同期が同じ気持ちだっただろう。
せめて朝くらいはゆっくりしたかったが、課題の作文を作らなければならないため、昼過ぎには警察学校の寮に戻らなければいけない。
絶望的な気持ちを抱きながら警察学校に戻る準備を始めた。
またあの生活に戻る―――。
できることなら金曜の夜に時間が戻って欲しいものだが、そんなことは起きるはずがない。
過ぎ去った時間は絶対に戻らないし、前に進むしかない。
このときばかりは警察官になったことを後悔したが、それでも自分で選んだ道だ。
今さら後戻りするわけにはいかない。
こんな葛藤が頭に巡る中、荷物をまとめた。
順調にいけばまた翌週には自宅に戻ってくることができる。
約1か月の地獄の生活を耐えることができたんだから、1週間なら大丈夫だろう。
そんな希望を抱き、自宅を出発した。
正午過ぎ、警察学校に到着
本当に足取りは重かったが、電車を乗り継いで警察学校に向かった。
この日は日曜日だったので、入校しているすべての警察官が警察学校に戻ってくる日。
そのため、警察学校の最寄り駅に到着するとそれらしき人物で溢れかえっていた。
20代前後でスーツを身に纏い、坊主に近い髪型で大きな荷物を持っている集団。
一般人が見てもすぐにわかる。
警察学校まではこの最寄り駅からバスに乗らなければいけないので、バス停には警察学校に向かう初任科生で行列ができていた。
この中には同期もいるし、先輩もいる。
既に警察学校に入校して半年の高卒期生の先輩たちはさすがに余裕の表情だったが、私を含む同期はどこか顔が暗かった。
この日は休日だったので、もっと晴れやかな表情をしていても不思議ではないが、やはりみんな気持ちは同じだったのだろう。
それも無理はない。
初外泊を終えたとはいえ、まだ警察学校に入校して1か月である。
この先にどんな困難が待ち受けているかわからないし、どんな訓練があるのかもわからない。
本音を言えば、誰だって警察学校に戻りたくない気持ちだったに違いない。
そんな中、警察学校行きのバスが停留所にやってきた。
大きな荷物を持った初任科生がぞろぞろとバスに乗り込む。
一応、一般の方も乗車しているのだが、車内のほとんどが初任科生という異様なバスだ。
だから車内で騒ぐことは許されないし、一般人以上にマナーには気を付けなければいけない。
このバスに普段乗っている市民は周りにいるのが警察学校の初任科生だということは当然わかっているし、なにかあればすぐに警察学校に苦情が入る。
そんな苦情が入ったらどんなことになるのかは想像に容易いので、誰もがマナーには気を付けている。
バスは順調にダイヤを消化し、着実に警察学校へと近づいている。
警察学校に入校したあの日、バスを降りて警察学校に一歩足を踏み入れた瞬間に怒声が聞こえた。
あのときは慌ててバスを降りたが、今回もそのようなことになるのか。
休日だが、教官は正門で待ち構えているのか。
様々な不安が頭をよぎる中、バスは警察学校の目の前に停車した。
次々と初任科生が降車し、私も流れに乗ってバスを降車した。
ドキドキしながら警察学校の正門に向かったが、そこに教官の姿はなかった。
想像とは違い、警察学校は静寂に包まれていた。
正直、拍子抜けしたが、怒られることがなく一安心。
同期一同が安堵の表情を浮かべ、そのまま寮へと向かった。
遂に戻ってきてしまった警察学校。
またあの生活が始まると思うと億劫でしかないが、やるしかない。
26歳で決めた警察官への道。
どんな試練が待ち受けていようとも立ち向かっていくしかないのだ。
課題の作文に着手する
警察学校に戻ったのは日曜日。
休日で間違いないのだが、すぐに課題の作文にとりかからなければならない。
後々わかることだが、斎藤教官はこのようにしてわざわざ休日に課題を出してくるタイプの教官だった。
しかも家でできることならまだしも、原稿用紙は警察学校に戻ってからでなければ自分の手元にはこないから厄介。
だから休日でも存分に自由を楽しめるわけではなく、実質1日半くらいしか自由な時間がない。
色々と文句を言いたいところだったが、斎藤教官の指示には従うのみ。
課題の提出が遅れれればどんな仕打ちを受けるかわからない。
正午を過ぎる頃、クラスの同期はすべてが警察学校に戻ってきていた。
この週末は各々が初外泊で幸せな時間を過ごしたことは間違いない。
初外泊してリフレッシュできたせいもあるのか、みんな入校当初のような極度の緊張感はなかった。
そして、恐らく入校してから初めてだろうが、同部屋の同期とゆっくり談笑する時間もあった。
今ここに残っている同期は最初の1か月をともに乗り越えた仲間であり、戦友でもある。
話すことによって発散できる部分もあるし、同期のありがたみがよくわかった。
しかし、いつまでもゆっくりしている時間はない。
ここから夜の消灯時間までに作文を仕上げなければいけないからだ。
与えられた原稿用紙は3枚。
テーマは「警察官になった理由」だった。
もちろん手書きなので、まずは文章の構成を考え、どういった結末で終わらせるのかを決めなければいけない。
原稿用紙3枚なのでこれくらい簡単かと思いたいが、いざ書こうとするとなかなか手が動かない。
教官に提出する作文だから適当に書くわけにはいかないし、誤字も許されないという緊張感があるので余計にだ。
休日なのでゆっくり集中して作文を書いていきたいところだが、意外とやらなければいけないことは多い。
夜はいつも通り点呼があるし、それまでに夕食と入浴を済ませる必要がある。
また、翌日の授業の準備や洗濯もしなければいけないので、時間を逆算すると余裕はない。
これに加えて実習日誌(休日でも書く)も待っているので、作文にかけられる時間はせいぜい3時間程度。
ときに部屋員と雑談を挟む場面があるので、本当に集中して仕上げなければ終わらない。
こういう場合、どうしても一人きりで集中したいならば午前中のうちに警察学校に戻ってくる必要がある。
実際、気合が入っていた同期は数名が午前中のうちに戻ってきていた。
幸いなことに文章を書くことには長けていたので、なんとか時間内に終わらせることができた。
それでも落ち着いている暇はない。
洗濯機を回し、翌日の授業の準備をして、さらに部屋員で覚えたての警察体操を復習するなど時間はあっという間に過ぎていった。
警察学校生活が再び始まる
夕食と入浴を済ませ、残すは夜の点呼。
念のため説明しておくと日曜は休日だが、夜はいつも通りの点呼が行われる。
日曜は警察学校に入校している初任科生が外泊から一斉に戻ってくるので、全員が揃っているかどうかの確認が必要だからだ。
なので、休日とはいえ午後9時頃にはまた気持ちを入れ替えなければならない。
警察学校生活も約1か月が経過したが、まだまだ先が読めない恐怖がある。
なにが待ち受けているのかわからない。
万が一、斎藤教官が体育館で待っている可能性も否定できないからだ。
いつも通りクラス員で整列し、夜の点呼に向かった。
ドキドキしながら体育館へ到着したが、そこに斎藤教官の姿はなかった。
ホッとしたのが本音だが、どこか寂しさを感じたのも事実だ。
ここまで毎日のように夜の点呼では斎藤教官のしごきを受けていたので、それが突然なくなったので拍子抜けした部分もある。
しかし、斎藤教官がいないからといって緊張感がある雰囲気であることには変わらない。
夜の点呼については一通りの流れがあり、それぞれのクラスが点呼をびっしりと決める必要がある。
総代が「番号!」と言ったら整列しているクラス員が勢いよく「1!2!3!…」と番号を数え、人数の確認を行う。
ちなみに私たちのクラスの総代は初外泊前に田中に決定していた。
警察学校の総代について詳しく解説!総代はどうやって選ばれる?役割は?出世しやすい?
これまで総代は日替わりで色々な人が務めてきたが、最終的に田中に決まった。
ここからは田中を中心にクラス運営がなされ、卒業までクラス一丸となって向かっていく。
この日の点呼は意外なほどすんなりと幕を閉じた。
「ここからまた別の展開があるのではないか」と心配なくらい平穏な点呼だった。
このときは何も感じなかったが、後から振り返れば教官たちにとってもようやく休みが与えられた状況であった。
なにせ教官たちは入校からずっと私たちに付きっきりで、休日も関係なく一緒にこの1か月を走り切ってきた。
朝から晩まで指導に明け暮れ、ほぼ休む時間もなかったはずだ。
教官たちにとっても過酷な1か月だったに違いない。
感情を露わにして初任科生を叱らなければいけないし、教官というのも酷な仕事だと感じた。
当時は絶対に思うことはなかったが、改めて教官には感謝しなければいけない。
夜の点呼が終わり、残すは実習日誌のみ。
入校当初はこの実習日誌を書き上げることに苦戦していたが、1か月もすれば慣れてくる。
1日を過ごしているうちに「こんなことを書こう」と考えられるようになったのも成長だ。
さらに翌日の準備、部屋の片づけ、ゴミ捨てなど一連の流れで動けるようになっていた。
伊達に過酷な1か月を過ごしたわけではなかったということだろう。
消灯時間を迎え、あとは寝るだけ。
ここで心配になるのは教官による夜の巡回だ。
ここまでの1か月、すんなり寝られる方が少なかったし、必ずどこかの部屋で嵐が起きていた。
消灯時間はそんな別の試練が待ち受けている時間だった。
そのため、大きな不安を抱えながら布団に入った。
すんなり朝を迎える
平穏に朝を迎えた。
振り返ればどこからも怒声は聞こえず、静かな一夜を過ごした。
こんなにすんなりと朝を迎えたのは警察学校に入校してから初めてだっただろう。
プレッシャーを感じながらの睡眠だったが、ゆっくり睡眠をとることができた。
さらに言えば、チャイムが鳴った瞬間に怒鳴り込んでくる教官もいない。
警察学校に入校して最初の1か月は指導強化期間と呼ばれ、とにかく教官からの追い込みが激しい。
ここまで伝えてきた通り、その追い込みは初日に一歩足を踏み込んだところから始まる。
このような厳しさから、実は警察学校に入校して最初の1か月が一番退職者が多い。
事実、クラスからは既に二人が退職している状況。
だが、ここを乗り越えれば警察学校の難易度は下がるし、とにかく指導強化期間を耐えるかどうかがすべてと言っても過言ではない。
実際、教官からの追い込みも少し落ち着く。
もちろん教官から怒られることには変わらないが、”真剣に辞めさせるため”の怒り方ではなくなる。
これまでとの変化は朝の点呼でもすぐに気付いた。
静かな朝を迎え、いつも通りの準備をしてグラウンドに向かったが、そこには斎藤教官の姿はなかった。
ここまで、毎朝必ずスタンバイしていた斎藤教官がいないから驚きだ。
異様な緊張感はないし、早朝から猛烈に追い込まれることもない。
これまた拍子抜けだが、どう考えてもこちらの方がいい。
やることは変わらないが、斎藤教官の目があるかないかでは大きく違う。
もちろんやることは変わらないし、総代の田中がしっかりと仕切ることも変わらない。
これまでとの雰囲気の違いに驚きは隠せなかったが、1つステップアップしたような気がした。
ある意味、ここからが本当の勝負である。
ここまでは”必死に食らいつく日々”であったが、ここからは”一人前の警察官になるための戦い”に変わる。
もう警察学校の生活には十分慣れた。
警察学校の規律にも慣れたし、教官から怒られることも慣れた。
大げさな話ではなく、ここからは警察学校卒業後を見据えなければいけない。
残すはわずか5か月。
5か月後には警察官として現場での勤務が始まっているのだ。
いつまでも戸惑っているわけにはいかないし、恐怖を感じているわけにもいかない。
ここからは授業も本格的に始まり、本当の意味で警察官としての生活が始まる。
今後は定期試験があるし、様々な検定も入ってくる。
ただ指示を聞いていればよかったこれまでの日々とは180度異なる。
また1つ気持ちを入れ替え、2か月目の警察学校生活が幕を切った。
-続く-
教場好きなので面白いです!
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鋭意執筆中ですので、今しばらくお待ち頂ければと思います。