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【実録警察学校#8】クラスの足を引っ張る織田が退職を決意…

私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第8話です。

入校して初めての週末を迎えるも、そこに待っていたのはこれまでと変わらない生活でした。

週末だからと言ってゆっくりできるわけでもなく、忙しい1日であることに変わりません。

第7話は下記のリンクからご覧ください。

【実録警察学校#7】初めて迎える週末 ついに織田が退職を口にする

そして迎えた初めての日曜日。

この日はまたも教官からの”奇襲”を受け、相変わらず心が休まらない1日となりました。

そして、前日に退職を口にした織田がついに退職を決意する…。

入校5日目、怪我人が増え始める

初めて迎えた日曜日の朝、いつものようにランニング+筋トレからスタート。

入校して5日目となり、徐々に体にも疲労を感じ始めた。

入校までにある程度のトレーニングをして準備してきたとはいえ、実際にやってみるとついていくのに精一杯である。

肉体的な疲労はもちろんのこと、精神的にも疲労があるから余計に疲れを感じる。

身体の至るところが筋肉痛になり始め、休めるならば休みたいというのが本音になってきた。

実際、5日目にもなると何人かの同期が怪我を負い、ランニングや筋トレなどから離脱した。

改めて説明しておくと、私が警察学校に入校した時期は秋である。

秋入校というのは転職組が多いので、必然的に平均年齢も高い。

私は26歳で警察学校に入っているが、私よりも年上の同期はもちろんいたし、最年長は30歳が3人いた。

私は無職の期間を経て警察学校に入校しているため、時間を多く持て余していたし、事前にトレーニングを積む時間はたくさんあった。

だから毎日のように走り込んでいたし、警察学校入校に備えて危機感を感じながら体力作りに励んでいた。

その結果、入校してから身体が悲鳴をあげていたのは間違いないが、幸いなことに怪我をして離脱することはなかった。

しかし、他の同期は入校直前まで仕事をしていた者も多数いるし、”ぶっつけ本番”という者も何人かいた。

事前準備をせず、警察学校でぶっつけ本番というのは本当に危ない。

陸上やマラソンをやっていた人間なら話は別だが、普通の社会人ならいきなり毎日ランニングを行えばどこかしら痛めるものだろう。

案の定、私のクラスでも事前に準備をして来なかった者たちが入校早々に怪我を負い、トレーニングから離脱することとなってしまった。

怪我をして集団行動やトレーニングから離脱するとどうなるのか。

結論から言うと、怪我をした者はただ見学するしかない。

クラスのみんなが歯を食いしばりながら必死にトレーニングや訓練に取り組む中、それを見つめるしかないのである。

怪我をするのは仕方ないし、怪我をしているのに無理をするのは禁物。

まずは治すことを最優先にしなければいけないし、無理に参加して悪化させる方が問題になる。

しかし、怪我は誰にでも起こり得ることなのだが、どうしても怪我人に対しては冷たい視線が注がれてしまう。

「俺たちはこんな辛い思いをしているのに何でこいつらは見学なんだ…

集団生活ではこう思われてしまっても仕方ない。

私のクラスでは、この時点で3人の怪我人が発生していた。

いずれも私より年上のメンバーだ。

やはりランニングで怪我をする者が多く、膝や足首を痛めることが多かった。

膝や足首を痛めてしまうと、もうどうしようもない。

しばらくは絶対に走れないし、無理して走ろうにも痛くて続かない。

さらに軽傷であれば病院に行くほどでもないし、自分で用意した湿布を貼ることくらいしかできない。

入校5日目というまだみんながピリピリしている雰囲気の中、怪我人は私たちの訓練を見ていることしかできない。

当然、斎藤教官からも雷が落ちる。

「もう怪我って…大丈夫か?準備もせずによくきたな。信じられんわ。」

怪我をしないように事前に体を作っておくのはとても大事なことなのである。

前日に続いて筆記試験が行われる

この日も前日に続いて筆記試験を行うとのことだった。

内容は前日とほぼ同じ。

職務倫理の基本+警察法2条丸暗記である。

結果を先に言えば、前日にこれを50回書くように課題を出されていたので、ほぼすべての者が満点をとることができた。

さすがに50回も書けば嫌でも覚えてしまう。

だが残念ながら、全員が満点をとったわけではない。

同じことをやっているのに個人差がどうしても出てしまう。

斎藤教官はまたも激怒である。

「できて当たり前のことがどうしてできないんだよ!能力が低いことわかってるか?いつまで警察官続けるつもりなの?」

入校5日目くらいになると、もう怒られることに慣れてくる。

教官の説教を聞き入れるしかないという絶望感もありながら、なんとなく警察学校というものがわかってきた。

そしてこの後は、警察体操の訓練だった。

警察体操は時間にすると約2~3分くらいだろうか。

一般的なラジオ体操と同じくらいのボリュームである。

覚えてしまえば動作は完全に身に付くのだが、慣れないものをすぐに覚えるのは難しい。

しかし、警察学校では短期間で警察体操を身に付けなければいけない。

なぜなら警察学校の朝の点呼で警察体操を行うし、警察署に赴任してからも平日は毎日朝礼で行うものだからだ。

見よう見真似でなんとか覚えようとするのだが、最初から最後までを完璧に覚えるのには時間がかかる。

警察体操は腕の角度や体の向きなど細かく決まっており、警察学校ではそれらを忠実に再現しなければいけない。

(警察署で行う警察体操はダラダラやっても問題ない)

しかも警察体操の練習をしているときは自分たちの周りでは教官たちが見張っているし、少しでも間違えば怒鳴られる。

「覚える気がないならてめぇは出てけ!!」

この日も何人かがターゲットにされ、訓練から除外された。

緊急招集の奇襲を喰らう

この日は朝のランニングから筆記試験、警察体操の訓練までジャージを着て行っていた。

午後からはまた別のことを行うので、スーツに着替えて寮で待機するよう命じられた。

よって私たちは指示通りスーツに着替え、寮で次の指示を待っていた。

ただ指示を待つだけの状態だが、これが先の見えない恐怖であり、とても気が休まる状況ではない。

すると校内放送が流れ、状況は一変した。

「今すぐ制服に着替えて教場に集合せよ。さらに持ち物として装備品の帯革、帯革止め、警棒、手錠、拳銃つりひもを持参すること」

やられた。

この一言に尽きる。

急いでクローゼットから支給されたばかりの制服を取り出し、着替えを始める。

まだこの時期はほとんど制服を着用したことがなく、着替えるのにも一苦労する。

細かい話だが、こういったときにネクタイを締めるのに慣れていない者は時間がかかる。

ネクタイを締めることには慣れておいた方がいいし、締め方がまったくわからないのなら練習をしておくのが吉。

制服に着替えながら引き出しにしまってあった装備品も取り出し、急いで着用した。

全員が大慌てだったが、何とか教場に向かえそうな状況になった。

クラスで揃って教場に向かおう…とするも、織田の準備がまだできていなかった。

どうやら装備品を適当にしまい込んでいたらしく、それを探すのに苦労をしていた。

他の部屋からは続々と準備を終えて整列を始めていたが、私の部屋は織田のせいでそうはいかなかった。

入校5日目にして、このような状況に陥るのは何度目のことだったか。

織田の準備が完了した頃にはみんな整列が完了しており、私たちに冷たい視線が注がれた。

「なんでこんなに遅いんだよ!いい加減にしろって!」

クラスメイトの我慢も限界だったのだろう。

私たちの部屋に厳しい言葉が飛んできた。

織田は大きな声で「すいません」と謝罪した。

険悪なムードの中、教場に向かった。

教場に着くと、斎藤教官が待ち構えていた。

どうやら校内放送から教場に着くまでの時間を計っていたらしく、

「こんなに遅いやつら初めて見たぞ。誰が遅いのか知らんけど足引っ張るやつは早く辞めていけよ」

と怒った。

恐らく遅れた原因が織田だったことは把握しているのだろう。

斎藤教官もそうだが、基本的に警察学校の教官はエリートが多い。

なにせ警察官の卵たちを相手にして、現場で通用する警察官を育成しなければいけないからだ。

だから「人を見る目」には長けているし、「不適格者」というのもすぐに見抜く。

このとき既に斎藤教官の目には織田が「不適格者」に見えていたに違いない。

教官から不適格者とみなされると、退職するように追い込まれることがある。

その方法は様々だが、どれだけ追い込まれても耐える者と、追い込まれたらすぐに退職してしまう者がいる。

やはり限界を感じてしまえば、責任をとって退職を選ぶ者もいる。

織田がこのときどう感じていたのかわからないが、彼が追い込みの対象になっていたのは間違いない。

相変わらず重苦しい雰囲気の中であったが、このとき斎藤教官からは装備品の正しい着用の仕方を教わった。

警察官は制服を着て、ベルトの上に帯革(たいかく)というベルトのようなものをもう1本着装する。

そして、その帯革に警棒・手錠・拳銃つりひもを着装している。

ベルトの上にもう1本ベルトを着けているという感じで、装備品をつけている分、腰回りは重い。

もちろん拳銃はまだつけていないし、上半身に着る防刃チョッキもまだ未経験の状態である。

なので、拳銃と防刃チョッキを着ればさらに体は重くなるので、立っているだけで体にはそれなりの重量がかかることになる。

また、ベルトと帯革を止めるために帯革止めというものを帯革に4個つける。

なかなかイメージしにくいものだが、帯革止めを使わないと帯革はずるずると下がってきてしまうので、必ずつけてなければいけない。

注意してもらいたいことは、帯革止めは小さいので非常に失くしやすいということ。

警察学校でもよく「どっかにいってしまった」ということが起きるので、管理には十分注意が必要。

弱音を吐いていた織田がついに退職を決意

そのあとは色々と事務作業を行い、夜はいつも通り教練の訓練だった。

5日目にもなると教練もなんとなく形にはなってくるのだが、やはりクラスの動きについてこれない者はついてこれない。

必然的にそのような者は教官に怒鳴られる。

だが、教官に怒鳴られながらもそれに耐えていると、できなかった者でもなんとかそれっぽい動きにはなっていく。

この日も徹底的にしごかれた。

風呂上がりに教練の訓練+筋トレを行い、終わる頃には汗びっしょり。

この時間に汗をかいてもシャワーを浴びることはできないので、これも耐えるしかない。

そして1日の予定がすべて終わり、寮に戻った。

消灯時間まで残り1時間、翌日の準備や部屋の片づけを行い、各自机に向かって実習日誌を書き上げる。

そんな中、唐突に織田が声を発した。

「明日の朝、退職することを斎藤教官に伝えようと思います。今まで迷惑かけてすいませんでした」

同部屋の私たち4人は言葉を失った。

私は織田が教官の追い込みに耐えながらも続けていくタイプだと思っていたので、突然の決意に驚いた。

織田に対して私たちは

「まだ頑張れるって。みんなで一緒に頑張ろう」

と返した。

それでも織田は

「僕は警察官に向いていなかったです。もうここから帰りたいです…」

と沈痛な面持ちで答えた。

どうやら織田の心はもう決まっているようだった。

織田の心の変化には気付かなかったが、やはりこれだけ追い込まれて辛い気持ちがあったのだろう。

初日に退職者が出て以降、クラスからはこれで二人目の退職となる。

しかも織田は同部屋だった。

少なくとも他のクラスメイトよりは接する時間が多かっただけに寂しい思いがこみ上げてきたし、正直に言えば「ここから抜け出せるのはいいな」とも思った。

織田が退職を決意したが、まだこの時点で退職が決まったわけではない。

斎藤教官に伝えるまではどうなるかわからないし、一晩寝れば考えも変わるかもしれない。

そんなことを思いながら、私はベッドに入った。

-続く-

>>【実録警察学校】第9話「同部屋の織田が退職、これで二人目の退職者に」

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