私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第4話です。
第3話はこちらのリンクからご覧ください。
前回はついに自分のクラスからも退職者が出る展開となり、クラスにも動揺が広がっていました。
なんとか初日を乗り越えたとホッとしたのも束の間、まだまだ初日は終わりませんでした。
ベッドに入って寝る時間のはずが…
私は初日の実習日誌をなんとか書き上げ、ベッドのある個室に入った。
ここからはようやく一人になれる時間である。
説明していなかったが、入校して早々に携帯電話は教官に提出している。
平日は携帯電話が一切使えず、週末にしか使えない。
携帯電話を使えないことが現代人にとってどれだけ苦痛であるかは想像の通り。
しかし、不思議とこのときはそんな苦痛すら感じなかった。
「ようやく心が落ち着けられる」
この安心感の方が遥かに強かったのである。
初日にしてどれだけ怒られただろうか。
明日以降なにが待ち受けているのかわからない恐怖感はあったが、ベッドに入って体を横にできただけで物凄くリラックスできた。
精神的にも肉体的にも疲労感があり、すぐに眠りにつけそうだった。
警察学校の消灯時間は完全に寮全体が消灯となる。
廊下とトイレくらいしか電気は点いていない。
そして警察学校のルールとして消灯時間になったら必ず消灯し、ベッドに入って寝なければいけないというルールがあった。
つまり終わらなかった課題をこっそり机でやることは許されないし、誰かと私語をすることも厳禁である。
動くことが許されるとするならばトイレに行くくらいである。
このルールは昼間に先輩から聞いていたので、私としてはもう寝るだけだった。
ところが、どうも様子がおかしい。
明らかに他の部屋で誰かが怒られている声が聞こえる。
「消灯時間になったのになぜ…?」
私は不思議でしょうがなかったし、そのせいで眠りにつけなくなった。
すると次第に足音が聞こえ、その足音は私たちの部屋の前で止まった。
「誰かが部屋の前にいる…」
せっかくベッドに入ってリラックスしていたのに、一気に緊張感が高まった。
そしてその足跡の主はドアを開け、開口一番でこう怒鳴った。
「なんだこれ!?全員起きろ!!」
私はなにが起こっているのかわからなかった。
もう消灯時間である。
あとは寝るだけではなかったのか。
だが、同じの部屋の者が個室から出ていく様子がうかがえた。
そのため私も個室から出た。
勉強机が並んでいるスペースに立っていたのは若い教官だった。
明らかに顔が怒っていた。
教官は「整理整頓しろって説明したよな?なんでこんなに汚いんだ!!」と怒鳴った。
勉強机を見てみると、確かに汚かった。
参考書や荷物が置かれており、とても整理整頓がされているとは言えない状態だった。
ただ言い訳をさせてもらうと、もはや時間がなかった。
確かに荷物を整理する時間は与えてもらったのだが、すべてが完璧には終わらなかった。
自分たちの要領が悪かったと言えばそれまでだが、初日に要領よく動けるはずがない。
また部屋に戻ってきてからやればいいかと考えていたのだが、まったく時間がなかったのである。
まさかこんな形で抜き打ちチェックをされるとは思っていなかった。
これも警察学校の洗礼の1つなのだろう。
ひとまず同部屋の5人ともすぐに荷物を片付けた。
若い教官はこれで納得したのか、なにも言わず部屋を出ていった。
後々わかることなのだが、消灯時間になっても若い教官たちが寮を巡回しているようで、不審な動きをする者は容赦なく怒られるみたいだ。
この日は初日ということもあり、恐らくすべての部屋で同じような説教があった。
そしてようやくここで初日が終了した。
これ以上の説教はなかった。
まさに激動の1日であった。
これほど強烈で過酷な1日は人生で後にも先にもこの日しかない。
だが、まだ1日目が終わっただけだ。
私は大卒なので警察学校に入校する期間は6か月ある。
本当に先が見えない戦いが続くのである。
早朝から怒声が響き渡る
先ほど説明したとおり、平日は携帯電話が手元にない。
現代人にとって携帯電話は目覚ましい時計の代わりでもあるが、警察学校ではどうやって朝起きるのか。
警察学校では起床時間にチャイムが鳴る。
流れを説明しておくと、チャイムが鳴ったらすぐに着替えてグラウンドに出ていかなければいけない。
チャイムと同時に起床→運動着に着替え→布団を畳む→グラウンドに集まるという流れだ。
当然ながらチャイムが鳴ってからは1秒たりともゆっくりしている暇はない。
チャイムが鳴ってから5分後にはグラウンドに整列した状態で集まっていなければいけないからだ。
寮からグラウンドまでは走って1分半程度だったので、着替えと布団を畳む作業を3分以内に終わらせる必要があった。
ただし、ここで思い出して欲しいことがある。
そう、警察学校の基本は集団行動であること。
自分だけ早く準備できたからといって1人でグラウンドには行けない。
クラス全員が揃ってからグラウンドに向かうのである。
私は1人暮らしの経験もあり、社会人の経験もあった。
だから社会で生き抜く要領は得ていたため、周りの行動に合わせることができた。
だが、やはり集団行動についてこれない者がいる。
特に朝の準備が遅い者は致命的である。
グラウンドに集まる理由は朝の点呼だ。
つまり警察学校に入校しているすべてのクラスが集まるため、1つのクラスが遅れる=全体に迷惑がかかってしまうのだ。
話を戻そう。
不思議と私はチャイムが鳴る前に目が覚めた。
腕時計を確認すると朝の6時25分くらいだっただろうか。
あと5分でチャイムが鳴るという状況だったが、ここで布団から出て準備をするのはルール違反なのである。
誰もがチャイムが鳴る前に準備を始めたいと思うのだが、あくまで行動するのはチャイムが鳴ってからだ。
私はじっとベッドの中でその時を待っていた。
そしてついに6時30分、起床のチャイムが鳴った。
その瞬間、部屋の前で待機していた若い教官がドアを開け、いきなり声を荒げる。
「早く準備しろ!!急げ!!」
本当にチャイムが鳴った瞬間だった。
正確に言えば警察学校で初めての朝である。
ただでさえ焦るのに、目覚めからこんな怒鳴り声を聞いて余計に焦る。
先ほども説明したように作業としては寝る格好から運動着(ジャージ)に着替えて布団を畳むだけだ。
要領がいい人間ならば、着替えをあらかじめわかるところに置いておく。
起きてから着替えを探しているようではとても間に合わないからだ。
繰り返しになるが、警察学校での集団行動に遅れると周りに迷惑がかかる。
迷惑をかけないために自分なりに要領よく考えることは非常に大事である。
だが、自分では当たり前のことなのにまったく要領よく動けない者が多々いるのも現実だ。
この日は準備ができたら部屋の前で整列するように指示を受けた。
案の定、私の部屋で準備が遅れていたのは織田だった。
他の部屋では続々と準備を終えて整列が進んでいたが、私の部屋だけまだ動けない。
織田の初日の動きを見ていればことあるごとに遅れることはわかっていたから、事前に声をかけておけばよかった。
このような場合、警察学校では2パターンに分かれる。
遅れる織田をとにかく叱責するか、同期生として織田をかばうかだ。
私は穏やかな性格なので後者だったが、全員が後者とは限らない。
2日目にして織田に対し怒る同期も現れた。
ようやく織田が準備を終えた頃、すでに目安となる5分は過ぎていた。
同じクラスの伊藤(仮名)は織田に対し「お前昨日も遅かったよな!?考えろよ!」と怒った。
織田はただ謝るしかない。
伊藤の気持ちもわかる。
なぜなら織田のせいでクラス全員が怒られるからだ。
ようやく全員が揃ったためグラウンドに向かったが、既にほかのクラスは整列が完了していた。
もちろん斎藤教官もすでに臨戦態勢だった。
「アホかお前ら!!」
2日目も怒られるところからの始まりだった。
ひたすら声を出して走る
朝の点呼では教官から初任科生に対して全体指示があり、その後に警察体操を行う。
警察体操の後はランニングが始まる。
ただし、普通のランニングではない。
クラス全員で揃って声を出しながら走るのである。
この日は初めてのランニングだったので、声の出し方や足の揃え方などを教わった。
警察学校で声を出すとはごく当たり前のことなのだが、とにかく大声を出さなければいけない。
だが答えを先に言ってしまうと、どれだけ大きな声を出しても教官には「声が小さい」と怒られる。
もちろんこのときもそうだった。
クラス全員が頑張って声を出していたのだが、斎藤教官は「聞こえん!もっと声出せ!!」と怒鳴ってくる。
厳密に言えばまだ寝起きである。
それでも全力で声を出さなければいけない。
ランニングをしながら大声を出すのは普通にランニングをするよりも倍疲れる。
呼吸が乱れるからだ。
警察学校に入校する前にある程度の体力作りはしていたが、声を出すことによって普通のランニングなのにとてもきつく感じた。
距離にすると約3キロのランニングを終える頃には息があがっていた。
しかし、お約束の展開が待っていた。
斎藤教官からは「すぐにスクワットやれ」と鬼の指令が下った。
寝起きからの追い込みがすごい。
よほど体力のある者でなければ完璧にこなすのは難しい。
それでもなんとか全員でやり切り、朝の点呼を終えた。
教場で斎藤教官から厳しい言葉が…
朝の点呼を終え、掃除、朝食という流れだった。
言うまでもないが、前日と同じく朝食は教官たちに囲まれた状態だ。
このときは多少食欲があり、しっかり食べることができた。
この後は着替えてすぐに教場に集合という指示だった。
そのため一度寮に戻り、身支度を整えることとなった。
警察学校の朝は本当に忙しい。
寝起きから点呼があってランニングもあるし、掃除もある。
その他にも細かいことを言えば歯磨きやひげ剃り、部屋の清掃とゆっくりしている時間がまったくない。
それに加えて授業の準備もしなければいけないし、それに合わせて制服にも着替える必要がある。
まさに時間との勝負だ。
朝食を終えて寮に戻ってきた私たちは各自急いで身支度をした。
時間的な余裕がない。
まだこのときは制服が支給されておらず、全員がスーツに着替えた。
そして全員が揃って教場へ…という流れなのだが、やはり織田が遅れた。
理想を言えば、織田をみんなで手厚くサポートしながら行動したい。
そうすれば織田だけ遅れるということもなくなるかもしれない。
だが、この時点ではまだみんな自分のことに必死で他人の面倒を見ている余裕がない。
これが現実なのである。
朝に引き続き、伊藤が織田に怒った。
「お前のせいでみんな怒られるんだからいい加減にしろって!」
織田は返す言葉もなく、もはや謝るしかない。
やや重たい雰囲気だったが、全員で教場へ向かった。
このように警察学校では教官だけでなく、同期生からも怒られることは珍しくない。
教場に集まると斎藤教官から厳しい言葉が浴びせられた。
「知っているとおり高橋が退職した。いい判断だったと思う。ここの生活についてこれないやつはすぐ辞めろ」
まずは初日の夜に退職した高橋について言及した。
続けて「他にも退職したいやついるか?いるなら手をあげろ」と言った。
私たちは黙って斎藤教官の話を聞くことしかできず、手をあげる者はいなかった。
もしかしたら退職を考えていた者がいたかもしれないが、張り詰めた雰囲気にのまれて手をあげられなかったかもしれない。
すると斎藤教官は「いないのかよ。昨日も言ったけど全員は卒業させないからな。お前らを辞めさせるのが俺の仕事だ」ときっぱり言った。
そして言いたいことだけ言い残した斎藤教官は教場を後にした。
-続く-
>>【実録警察学校】第5話「警察学校での生活が本格的にスタート」
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