私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第4話です。
第3話はこちらのリンクからご覧ください。
前回は入校初日にしていきなり自分のクラスからも退職者が出る展開となり、クラスにも動揺が広がっていました。
警察学校の恐ろしさを十分に思い知らされた入校初日。
本当に疲れた1日でしたが、また明日に備えるためにベッドに入りました。
これでなんとか初日を乗り越えたとホッとしたのも束の間、まだまだ初日は終わりませんでした。
消灯時間のはずが…
同じクラスの高橋の退職に衝撃を受けたが、それでもなんとか初日の実習日誌を書き上げ、ベッドのある個室に入った。
ここからはようやく一人になれる時間である。
警察学校では常に集団生活になるから一人になれる時間というのは本当に就寝のときくらい。
それと同時に長い長い警察学校初日がようやく終わりを迎えようとしている瞬間だった。
勉強机の上は整理整頓ができないままだったが、明日改めてやればいいと考えていた。
説明していなかったが、入校して早々に携帯電話は教官に提出している。
だから、もうこの時点では携帯が手元にはないし、平日は携帯が一切使えない。
平日どころか指導強化期間が終わるまでは携帯が返ってこないということだったので、約1か月携帯がない生活のスタートである。
携帯を使えないことが現代人にとってどれだけ苦痛であるかは想像の通りだ。
特に警察学校に入校したばかりの頃は外部との連絡がとれない上、携帯がないから世の中でなにが起きているのかもわからない。
しかし、不思議とこのときはそんな苦痛すら感じなかった。
「ようやくベッドで心が落ち着けられる」
「ベッドに入れば誰にも怒られない」
この安心感の方が遥かに強かった。
入校初日にしてどれだけ怒られたかわからないし、どれだけ精神的なプレッシャーを受けたかもわからない。
よくわからないまま1日が終わったとも言える。
明日以降なにが待ち受けているのかわからない恐怖感はあったが、ベッドに入って体を横にできただけで物凄くリラックスできた。
精神的にも肉体的にも疲労感があり、すぐに眠りにつけそうだった。
警察学校の消灯時間は完全に寮全体が消灯となる。
廊下とトイレくらいしか電気は点いていない。
むしろ警察学校のルールとして消灯時間になったら必ず消灯し、ベッドに入って寝なければいけないというルールがある。
だから、消灯時間を過ぎたらベッドの上から身動き1つとってはいけなくなる。
終わらなかった課題をこっそり机でやることは許されないし、誰かと私語をすることも厳禁である。
動くことが許されるとするならばトイレに行くくらい。
このルールは昼間に先輩から聞いていたので、私としてはもう寝るだけだった。
また明日も頑張ろうと思った矢先、どうも様子がおかしいことに気付く。
そう、明らかに他の部屋で誰かが怒られている声が聞こえる。
「消灯時間になったのになぜ…?」
不思議で仕方なかったし、そのせいで段々と眠りにつくどころではなくなってきた。
リラックスした状態から一転、ベッドの中で段々と緊張感が高まる。
すると次第に足音が聞こえ、その足音は私たちの部屋の前で止まった。
「誰かが部屋の前にいる…」
段々と高まっていた緊張感が最高潮になり、もはや寝るどころの状態ではなくなった。
そして、その足音の主はドアを開け、開口一番でこう怒鳴った。
「なんだこれ!?全員起きろ!!」
私はなにが起こっているのかわからなかった。
もう消灯時間である。
あとは寝るだけではなかったのか。
だが、同じの部屋の者が個室から出ていく様子がうかがえた。
そのため、私も慌てて個室から出た。
勉強机が並んでいるスペースに立っていたのは若い教官だった。
明らかに顔が怒っていた。
教官は「寝る前に整理整頓しろって説明したよな?なんでこんなに汚いんだ!!」と怒鳴った。
勉強机を見てみると、確かに自分を含めて全員の机が乱れていた。
参考書や荷物が置かれており、とても整理整頓がされているとは言えない状態だった。
ただ、言い訳をさせてもらうともはや時間がなかった。
確かに荷物を整理する時間は与えてもらったのだが、すべてが完璧には終わらなかった。
しかも整理整頓の要領もよくわかっていなかったし、どこまで必要なのかも確認していなかった。
自分たちの要領が悪かったと言えばそれまでだ。
まさかこんな形で抜き打ちチェックをされるとは思っていなかった。
これも警察学校の洗礼の1つなのだろう。
ひとまず同部屋の5人ともすぐに荷物を片付けた。
若い教官はこれで納得したのか、なにも言わず部屋を出ていった。
後々わかることなのだが、消灯時間になっても若い教官たちが寮を巡回しているようで、不審な動きをする者は容赦なく怒られるみたいだ。
この日は初日ということもあり、恐らくすべての部屋で同じような奇襲があった。
消灯時間になっても緊張感から解放されないとはさすが警察学校だと思った。
そして、ようやくここで初日が終了した。
これ以上の説教はなかった。
正真正銘、まさに激動の1日であった。
これほど強烈で過酷な1日は人生で後にも先にもこの日しかない。
今思えば達成感を得てもいい1日だったかもしれないが、まだ初日が終わっただけ。
私は大卒なので警察学校に入校する期間は6か月ある。
先が見えない恐怖との戦いはまだまだ続く。
早朝から怒声が響き渡る
先ほど説明したとおり、警察学校の生活は携帯電話が手元にない。
携帯電話というのはもはや電話だけをするツールではなく、現代人にとっては様々な目的で使うことができる必需品となっている。
その中の1つにアラーム機能がある。
多くの方が携帯電話を目覚ましとして使っているに違いないし、携帯のアラーム機能がなければ起きられないという人も珍しくないだろう。
では、携帯がない警察学校ではどうやって起床するのか?
その答えはチャイムである。
警察学校では起床時間になるとチャイムが鳴り響く仕組みとなっているし、チャイムが起床の合図となっている。
チャイムが鳴ったと同時に起床し、素早くジャージに着替える+布団を畳むという作業を行う。
そして、準備ができたらすぐにグラウンドに出ていくというのが一連の流れになる。
当然ながらチャイムが鳴ってからは1秒たりともゆっくりしている暇はない。
チャイムが鳴ってから5分以内には初任科生全員がグラウンドに整列した状態で集まっていなければいけないからだ。(初任補修科生も入校中は同じ動き)
寮の部屋からグラウンドまでは急いでも1分半程度はかかるため、着替え+布団を畳むという作業を3分以内に終わらせる必要があった。
慣れてこれば大したことではないのだが、入校してからこの動きに慣れるまでは意外と大変。
素早くジャージに着替えることも慣れていないし、きれいに布団を畳むことにも慣れていない。
(布団の畳み方が乱れていると後から呼び出しを受ける)
しかもここで思い出して欲しいことは警察学校の基本は集団行動であるということ。
自分だけ早く準備できたからといって集合ができても意味はない。
誰か一人が遅れればそれは連帯責任になるし、全員が集合できてやっと意味がある。
悲しきかな、このような場面でもやはり集団行動についてこれない者がいる。
誰もが必死に準備をしてグラウンドに向かう中、どうしてもこの動きについてこれない者はいる。
朝グラウンドに集まる理由は朝の点呼のためなので、朝の準備が遅いというのは本当に致命的となる。
なぜなら、朝の点呼は警察学校に入校しているすべてのクラスが集まるため、1つのクラスが遅れると警察学校全体に迷惑がかかってしまうからだ。
たかが一人が遅れるだけで点呼を開始することができず、全員の時間を奪うことになってしまう。
話を戻そう。
不思議と私はチャイムが鳴る前に目が覚めた。
腕時計を確認すると朝の6時25分くらいだっただろうか。
本当に不思議だったが、「絶対に寝坊しちゃいけない」という緊張感があるとこんなものなのかもしれない。
あと5分でチャイムが鳴るという状況だったが、悪知恵が働くものなら「チャイムが鳴る前に着替えを済ませておこう」ということを思いつくだろう。
なにせチャイムが鳴る前に準備を始めておけば遅れることがないし、周りに差をつけることもできる。
だから早く目が覚めたのならばその分だけ早く行動をしたいと思うものだが、残念ながら起床時間よりも前に布団から出て準備をするのはルール違反である。
誰もが同じことを考えるだろうが、あくまで行動するのはチャイムが鳴ってからということを覚えておいて欲しい。
そのルールを事前に聞いていた私はじっとベッドの中でその時を待っていた。
1秒、また1秒と起床時間の6時30分に向かって腕時計が進んでいく。
チャイムが鳴ったらまた警察学校の1日が始まると考えると憂鬱で仕方ないが、それでも時計の針は止まらない。
そして、ついに6時30分になった。
起床のチャイムが鳴り、警察学校入校2日目が幕を開けた。
チャイムが鳴った瞬間、部屋の前で待機していた若い教官がドアを開け、いきなり声を荒げる。
「早く準備しろ!!急げ!!」
本当にチャイムが鳴った瞬間だった。
正確に言えば警察学校で初めての朝である。
ただでさえ焦るのに目覚めからこんな怒鳴り声を聞いて余計に焦る。
先ほども説明したように作業としてはジャージに着替えて布団を畳むだけだ。
特別難しいことではない。
要領がいい人間ならば、着替えをあらかじめ取りやすいところに置いておく。
起きてから着替えを探しているようではとても間に合わないからだ。
繰り返しになるが、警察学校では集団行動に遅れると周りに迷惑がかかるので、それをいかに防ぐかが重要となる。
周りに迷惑をかけないために自分なりに要領よく考えて行動することは非常に大事だ。
だが、そんなことはお構いなしに要領よく動けない者が多々いるのも現実。
この日は準備ができたら部屋の前で整列するように指示を受けた。
案の定、私の部屋で準備が遅れていたのは織田だった。
他の部屋では続々と準備を終えて整列が進んでいたが、私の部屋だけまだ動けない。
織田の初日の動きを見ていればことあるごとに遅れることはわかっていたから、事前に声をかけておけばよかったのかもしれない。
このような場合、警察学校では2パターンに分かれる。
遅れる織田をとにかく叱責するか、同期生として同じ部屋員として織田をかばうかだ。
私は穏やかな性格なので後者だったが、全員が後者とは限らない。
2日目にして織田に対し怒る同期も現れた。
ようやく織田が準備を終えた頃、すでに目安となる5分は過ぎていた。
同じクラスの伊藤(仮名)は織田に対し「お前昨日も遅かったよな!?考えろよ!」と怒った。
織田はただ謝るしかない。
伊藤の気持ちもわかる。
なぜなら織田のせいでクラス全員が怒られるからだ。
全員が揃ってグラウンドに到着した頃、既にほかのクラスは整列が完了していた。
もちろん斎藤教官もすでに臨戦態勢だった。
「アホかお前ら!!」
2日目も斎藤教官に怒られるところからの始まりだった。
ひたすら声を出して走る
朝の点呼ではまず全員が揃っているかの点呼が行われ、その後に教官から全体指示や警察体操が行われる。
ここでは国旗掲揚もあり、厳格な雰囲気に包まれる瞬間がある。
警察学校の1日は必ずこの朝の点呼から始まる。
そして、警察体操の後は誰もが憂鬱になる朝のランニングが始まる。
個人的な話をすれば、警察学校で嫌いだったものを挙げると真っ先にこの朝のランニングが頭に浮かぶほど苦手だった。
なぜなら、ただ走るだけの普通のランニングではないからだ。
警察学校で行うランニングはクラス全員で大きな声を出しながら走るので、単純にきつい。
この日は初めてのランニングだったので、声の出し方や足の揃え方などを教わった。
警察学校で声を出すことはごく当たり前のことなのだが、声というのはとにかく大声を出さなければいけない。
特に入校当初はものすごい声量が求められる。
ちなみに答えを先に言ってしまうと、どれだけクラスで大きな声を出しても教官には「声が小さい」と怒られる。
これはお決まりのものだが、もちろんこのときもそうだった。
クラス全員が頑張って声を出していたのだが、斎藤教官は「聞こえん!もっと声出せ!!」と怒鳴ってくる。
厳密に言えば、まだ寝起きである。
慌ただしい起床をしてからまだ30分も経っていない。
それでも警察学校では寝起きだろうが全力で声を出さなければいけない。
ランニングをしながら大声を出すと呼吸が乱れるので、普通にランニングをするよりも数倍は疲れる。
警察学校に入校する前にある程度の体力作りはしていたが、声を出しながら走る練習はしていない。
さすがに声出しは事前に練習をするのが難しいので、余裕を持って体力は準備しておいた方がいいだろう。
距離にすると約3キロのランニングを行ったが、終了間際には完全に息があがっていた。
寝起きでこれだけ声を出しながら走るというのはなかなかハードだ。
なんとか走り切ったことでとりあえずこの苦しみからは解放される…はずだった。
しかし、あっさりと希望は打ち砕かれ、残念なことにお約束の展開が待っていた。
ランニングを終えた私たちを待ち構えていた斎藤教官は「すぐにスクワットやれ」と鬼の指令を下した。
朝からの追い込みが半端ではないが、この追い込みはこの後も毎朝の定番になるものだった。
よほど体力のある者でなければ完璧にこなすのは難しいだろう。
もはやまともにスクワットをすることはできなかったが、なんとか全員で乗り切った。
教場で教官から厳しい言葉が…
ようやく朝の点呼を終え、ここから掃除→朝食という流れだった。
言うまでもないが、前日と同じく朝食は教官たちに囲まれた状態だ。
このときは多少食欲があり、しっかり食べることができた。
朝からこれだけの運動を行えば自然と食欲は沸くので、非常に健康的な生活なのかもしれない。
この後は着替えてすぐに教場に集合という指示だった。
そのため一度寮に戻り、身支度を整えることとなった。
警察学校の朝は本当に忙しい。
慌ただしい寝起きから点呼を行い、その後はランニングがあるし、掃除も朝食もある。
その他にも細かいことを言えば歯磨きやひげ剃り、部屋の清掃や提出物の回収・提出など、ゆっくりしている時間はまったくない。
特に生活リズムがつかめていない入校当初は朝の時間が本当に苦労する。
さらに1限目の授業の準備もしなければいけないし、それに合わせて制服や柔道着・剣道着にも着替える必要がある。
まさに時間との勝負だ。
このときも朝食を終えて寮に戻ってきた私たちは各自急いで身支度をした。
とにかく時間配分がわからず、時間的な余裕がまったくない。
まだこのときは制服が支給されていなかったので、全員がジャージからスーツに着替えた。
そして、全員が揃って教場へ…という流れなのだが、やはり織田が遅れた。
理想を言えば、織田をみんなで手厚くサポートしながら行動したい。
そうすれば織田だけ遅れるということがなくなるかもしれない。
だが、この時点ではまだみんな自分のことに必死であり、他人の面倒を見ている余裕がない。
周りの部屋員がなにをしているのかを把握するのも難しい。
入校当初はこんな状況が現実なのである。
朝に引き続き、伊藤が織田に怒った。
「お前のせいでみんな怒られるんだからいい加減にしろって!」
織田は返す言葉もなく、もはや謝るしかない。
伊藤が怒るのは全員が納得だろう。
織田が伊藤に怒られたように警察学校では同期生から怒られるということは決して珍しいことではない。
正義感の強い同期であれば、平気で厳しい言葉を浴びせてくる者もいる。
警察学校ではこれがあるべき姿なので、できない者がとことん追い込まれるのは自然の摂理だ。
警察学校はできない人間に合わせる場所ではないので、できないならばできるように努力をする必要がある。
その努力を怠ればどんどん同期から追い込まれることになり、次第に生活がしづらくなっていく。
これは誰もが肝に銘じておくべきだろう。
織田の遅れによってクラスはやや重たい雰囲気だったが、全員で教場に向かった。
教場では斎藤教官からの厳しい言葉が待っていた。
「知っているとおり高橋が退職した。いい判断だったと思う。ここの生活についてこれないやつはすぐ辞めろ」
まずは初日の夜に退職した高橋について言及した。
退職する者に対しても容赦はないが、警察学校ではこれが当たり前だろう。
続けて、「他にも退職したいやついるか?いるなら手をあげろ」と言った。
私たちは黙って斎藤教官に視線を合わせることしかできず、ここで手を挙げる者はいなかった。
もしかしたら退職を考えていた者はいたかもしれないが、張り詰めた雰囲気にのまれて手をあげられなかったのかもしれない。
すると斎藤教官は「いないのかよ。昨日も言ったけど全員は卒業させないからな。お前らを辞めさせるのが俺の仕事だ」ときっぱり言った。
そして、言いたいことだけを言い残した斎藤教官は教場を後にした。
とにかく私たちは言われるがままにするしかない。
反論する余地はないし、反論すること自体が許されない。
これが警察学校で養うべき忍耐力だ。
こうして入校2日目の一日が始まりを告げたのだった。
-続く-
>>【実録警察学校】第5話「警察学校での生活が本格的にスタート」
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