私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第5話です。
第4話は下記のリンクからご覧ください。
驚きの連続であった警察学校入校初日をなんとか乗り越え、ようやく2日目に突入。
最後の最後まで息つく暇がない激動の初日でした。
ここからは2日目に入り、警察学校で本格的な生活がスタートします。
警察学校では覚えることが多数あり、緊張感が続く生活は変わりませんでした。
警察学校で忘れ物は厳禁
入校2日目、警察学校のベッドで迎える初めての朝だった。
起床は朝6時30分と決まっており、この時間に校内にチャイムが鳴り響く。
ルールとしてはチャイムが鳴るまではトイレ以外で布団の中から動いてはいけないというものだった。
軽く朝の流れを説明しておくと、チャイムが鳴ったのと同時に布団を畳んで着替えを行い、全員がグラウンドに集合する。
そのため、ずる賢く行動しようとする者はチャイムが鳴る前から着替えを行い、遅れをとらないようにする。
残念ながらこれはルール違反であり、これを予測している教官はわずかな物音にでも反応し、早朝だろうがいきなり部屋に突撃してくる。
だから基本的にはチャイムが鳴るまではたとえ起きていたとしても布団の中で過ごさなければならない。
初めて迎える警察学校での朝は今でも忘れないが、自然と6時過ぎに目が覚めた。
目覚ましもない状態でよく目が覚めたものだが、極限の緊張状態だったと記憶している。
入校初日に警察学校の洗礼を受け、これからどうやって生活していくのか不安な気持ちが大きかったため、疲れていても自然と目が覚めたのだろう。
布団の中で待っていると、定刻になってチャイムが鳴った。
ここから寮全体が一斉に動き出し、慌ただしい1日が始まった。
何となく予想はしていたが、寮に鳴り響いたのは教官達の怒号だった。
「早く準備しろ!!」
「急げ!!」
2日目はこのようなスタートとなり、全員が軽いパニック状態であった。
布団を畳む、着替えるといった単純なことでも時間がかかる。
準備ができた部屋から部屋の前で整列をする指示だったが、ここでも早い者と遅い者で差がつく。
案の定だったが、同じ部屋員の織田は準備が遅れ、整列にも遅れていた。
一人が遅れる=全員が遅れることになるので、またもクラスは険悪なムードになった。
ようやく織田が整列したところで全員でグラウンドへ向かったが、既に他のクラスは準備が完了していた。
もちろん斎藤教官は既にグラウンドで待ち構えており、遅れたことに対して激怒されたことは言うまでもない。
この後、クラス全体でランニングを行い、その後に筋トレも行った。
早朝からのランニング&筋トレを終え、教場に集まった私たちは斎藤教官から厳しい言葉を頂いた。
警察学校の朝はほぼこのような流れである。
普通の学校で言うところの”ホームルーム”の時間が警察学校でも必ずあり、1限の授業が始まる前に教場に集まる。
ホームルームでは教官からその日全体の指示を受けることもあるが、基本的には教官から怒られる時間であった。
そのため、毎朝のホームルームは常に緊張感があったし、憂鬱だった。
記憶が正しければホームルームの時間で褒められたことはない。
朝から慌ただしい中、クラスの雰囲気は重たいままである。
周りにいる同期と愚痴でもこぼしたいものだが、この時点ではまだ同じ部屋の者としかしゃべったことがなかった。
はっきり言ってクラス全員と会話をする時間なんてなかったし、どんな人が同じクラスにいるのかもまだ知らない。
警察学校では学生番号というのが決められており、これが年齢の順であることは一応察していた。
私は当時26歳であったため、学生番号は若い番号であった。
クラスの3分の2が自分より年下であり、残り3分の1が同い年もしくは年上という年齢層だった。
つまりほとんどの同期が自分より若く、どちらかと言えば私は”おじさん組”だった。
ただし、警察組織の同期は年齢は一切関係ない。
同期=同級生という扱いで、年上の同期であろうが敬語を使う必要はない。
厳密に言えば、年上に対しては敬語を使う同期もいたし、逆に年上だろうが関係なく接する同期もいた。
この辺はクラスの雰囲気によって変わると思われる。
2日目の予定は聞かされていなかったが、どうやら2日目もまずは色々な手続きを行うとのことだった。
初日に続き、この日もまずは保険の関係の手続きが行われた。
このようなとき、手続きの説明をしてくれるのは斎藤教官とは別の教官である。
もちろん斎藤教官ではないからと言って、優しくしてくれるわけではない。
色々なタイプの教官がいるが、入校早々に優しくしてくれる教官なんていうものはいない。
警察学校に入校するときは様々な書類を事前に用意して持ち込む必要がある。
それは住所変更などをするから住民票が2通ほど必要だったし、年金の手続きをするから年金手帳も持参しなければならなかった。
これらの書類については入校前の案内にしっかり「絶対に忘れないこと」と書いてあるのだが、案の定忘れる者が多数いる。
住民票などを忘れてしまうと、初任科生は入校当初は外出ができないため、委任状を書いて教官に役所まで行ってもらわなければいけなくなる。
当然だが、自分の代わりに教官に動いてもらうことなど許されるわけがない。
だからこそ案内に「絶対に忘れないこと」と書いてあるのだが、私のクラスには大事な書類を忘れた者が3名いた。
言うまでもなく教官は激怒である。
想像の通り、この3名の中にはマイペースな織田もいた。
このときいた教官は怒鳴るタイプではなく、冷静に「こんなことも守れないやつ無理だぞ?しっかり考えたらどうだ?」と静かに怒った。
斎藤教官のようにとにかく怒鳴る人もいれば、このように冷酷な口調で追い込む教官もいる。
いずれにしても怒られる方とすれば精神的に辛い。
様々なルールを叩き込まれ…
2日目の午前中は様々な手続きで終わり、昼食の時間となった。
この日の昼食も初日と同じく、複数の教官が目を光らせる中での食事となった。
初日に比べれば少し食欲もあったが、それでも雰囲気が重すぎて食事の味を感じなかった。
5分以内で完食しなければいけないのは相変わらずだったため、私はご飯の量を少なめにした。
不本意ではあるが、その場の対応力とはこういうことである。
私は大食いのタイプではないため、急にご飯をかきこめと言われても簡単にはかきこめない。
だから最初から少ないご飯を選んでいれば、なんとか対応することができる。
ちなみに私がいた警察学校は食堂ですでに盛り付けられているご飯やおかずを取っていくスタイルで、量の違いは自分で選べた。
少ないご飯を選んだ私はなんとか5分以内に完食できた。
相変わらず雰囲気に押されて完食できない者は多数いたが、これは致し方ない。
私も多少の食欲があったとはいえ、お腹が空いていると言える状態ではなかった。
昼食が終わると、再び教場に集まるよう指示を受けた。
教場にやってきたのは斎藤教官だった。
斎藤教官からは警察学校での様々なルールについて説明を受けた。
ざっくり言うと、
・校内で教官とすれ違うときは立ち止まり、頭を下げ大声で挨拶する
・食堂などを除いては基本的に移動は走る
・警察学校では給料が出る。様々な試験で結果が出ないやつは退職させる
・同期=ライバル、優しさなんていらない
・初任科生同士の恋愛は絶対に禁止
などを叩き込まれた。
そしてこのときも斎藤教官は「絶対に全員で卒業させない。できないやつは退職させてやるから覚悟しとけ」と言い放った。
既にこの時点でクラスからは1名が退職しているだけあって、斎藤教官の言葉は重くリアルに感じた。
すると、おもむろに斎藤教官は「今から走る練習だ。全員外に出ろ」と指示した。
前回も書いたが、まだこの時点では制服もクラスお揃いのジャージも届いていない。(このときは寝るときや朝のランニングは持参したジャージを着ていた)
そのため、私たちは基本的にスーツ+革靴という格好である。
この格好で「走れ」という指示はなかなか信じられないが、教官の指示には従うしかない。
全員で外に出て、ランニングを始めた。
「もっと声出せ!!聞こえん!!」
「やる気あんのか!!声出すまで終わらんぞ!!」
斎藤教官が付きっきりでランニングをする私たちに怒声を浴びせてくる。
もちろん私たちもしっかり声を出しているのだが、斎藤教官はまったく納得しない。
スーツに革靴のため、非常に走りにくいし余計に体力を奪われる。
当然ながら足も痛い。
これが30分以上続いただろうか。
斎藤教官は「よし、全員ジャージに着替えて来い。10分以内に集合だ。縄跳びも持ってこい」と突然次の指示を与えてきた。
みんなそれなりに息が上がっていたが、さらに強度の高いトレーニングをするとのことだった。
なぜか警察学校の入校案内の持ち物には”縄跳び”と書かれていたため、私たちは縄跳びも準備していた。
10分以内に再集合しなければいけないため、全員息を切らしながらも急いでグラウンドから寮に戻った。
スーツからそれぞれ持参したジャージに着替えるのだが、やはりここでも個人差が出る。
珍しく織田は着替えを早く済ませ、列に並んでいたのだが、織田は「縄跳びを忘れた」と言って部屋に戻った。
やはり織田はクラスの足を引っ張る。
もちろん同じ部屋の私たちが織田をしっかりサポートしてやればよかったのだが、本当にこのときは周りをサポートするほどの余裕がない。
毎度同じように織田が遅れる=クラス全体の行動が遅れるということなので、織田にはクラス員から鋭い視線が送られる。
クラスの誰もが「教官に怒られたくない」という心理になっているため、織田に対する風当たりは日に日に強くなっていった。
私は率直に「織田はみんなに怒られてかわいそうだな…」と内心思っていたが、それを口にすることはできなかった。
なぜなら警察学校は集団行動であり、ついてこれない者は自分自身を見つめ直して行動を改めるしかない。
それでもついていけないという者は警察学校を去っていくしかない。
だから織田に対して風当たりが強くなるのは当たり前のことで、何度も約束の時間を破る織田が単純に悪い。
このあと再び斎藤教官のしごきを受け、体力を消耗した。
そして、再度スーツに着替えて教場に集合するよう指示を受けた。
もはや寮と教場の間を走って移動するだけで疲れるし、着替えるのも疲れる。
多少ストレスもたまるし、「いちいち着替えなくてもいいじゃん…」と愚痴もこぼれる。
だが、黙って耐えるしかない。
これが警察学校なのである。
実習日誌について早くもダメ出しを受ける
警察学校では毎日、その日の出来事や反省点を実習日誌に書いて提出しなければならない。
1日分はB5サイズ半分程度なのだが、最後の行までしっかり書かなければいけないし、空白は許されない。
十分な時間さえ与えてもらえればそれなりの内容で書けるのだが、いかんせん実習日誌に割ける時間がない。
実習日誌を書けるのは毎日消灯時間前のわずかな時間だけ。
しかも全員が実習日誌を書き上げ、消灯時間までに教場当番が全員分を回収→翌朝教官に提出という流れなので、本当に時間がない。
初日に限って言えば寝る前の数分しか書く時間はなかったし、文章を書くのが苦手な者にとってはとても時間が足りないことだろう。
実習日誌はたとえしっかり書けていなくても必ず毎日提出しなければならない。
そうなると内容はともかくとして「とりえあず提出する」ということになってしまうが、時間的な制約を考えれば仕方ない。
だが、そんなものを斎藤教官が許すわけはない。
スーツに着替えて教場に戻ると、斎藤教官は実習日誌について怒った。
「昨日の実習日誌見たけど、お前らひどいぞ?こんなのもまともに書けないの?」
実際には私も殴り書きのように急いで書いたので、恐らく私のことも含まれていただろう。
「給料が発生してるんだからしっかり書けよ!これが今のお前らの仕事だろ!」
斎藤教官が言うことは確かに正しいかもしれない。
税金で給料をもらう立場として、やるべきことはやらなければいけない。
だが、圧倒的に時間が足りないのが現実である。
斎藤教官からしっかりと説教を受け、今後どうしていけばいいのかわからないまま2日目の授業時間は終わった。
そして昨日と同じく、夕食を食べて入浴した。
この日の入浴時間もクラス全体で10分あったかどうかである。
もはや体をしっかり洗うことも拭くこともできない。
そんなめちゃくちゃな時間配分でも黙ってついていくだけだ。
入浴後は部屋に戻って待機するよう指示をされたため、「次はなにがあるのか…」と不安に思いながら部屋に戻った。
入浴後、すぐに汗をかくことに…
ドキドキしながら部屋で待機していると、校内放送がかかった。
「初任科○○期生は全員揃って体育館に集合せよ」
この放送を聞いて私は昨日と同じ展開であることをすぐに察した。
そう、次に行われるのは体育館においての教練の練習である。
再度、慌てて準備を行い、全員で体育館へ向かった。
体育館に到着すると前日と同じく、複数の教官が私たちを囲む異様な雰囲気で、この日も敬礼や回れ右などの練習が行われた。
これらの動作については全員の動きが完璧に揃わなければならず、1人でも動きが遅れると非常に乱れが目立ってしまう。
前日に続いてこれが2回目の練習だったが、まだまだ動きは揃わない。
「今のはてめぇが遅いんだよ!!やり直せ!!」
集団の動きから動作が遅れる者は徹底的に怒られる。
ときにはクラスの列から引っ張り出され、「もうこっから出てけ!お前なんていらん!」と怒鳴られることもある。
このような場合、初任科生は「すいませんでした!もう1度やらせてください!」と大きな声で教官に頭を下げなければクラスの列には戻らせてもらえない。
私も何度か動作が遅れ、「てめぇは抜けろ!」と腕を引っ張られて列から出されたことがある。
さらに前日と同じく、教練の練習から腕立て伏せ、スクワットなどの筋トレも行った。
この教練の練習は入浴後に行われるのだが、せっかく風呂に入ったのに終わる頃には汗びっしょりである。
当然、寝る前に再び風呂に入ることはできないし、シャワーを浴びることすらできない。
つまり、そのまま寝なければいけないのだ。
綺麗好きの私にとってはやや受け入れがたいことだったが、もはや受け入れるしかない。
この辺の感覚は次第に慣れていくし、潔癖症の人でもそう心配はないだろう。
警察学校の就寝前は忙しい…
教練の練習後は夜の点呼が行われた。
まだ点呼については練習をしていないため、この日も先輩たちの動きを見て点呼の動きを学ぶだけだった。
点呼について軽く説明をしておくと、クラス員が全員いることを教官に申告する場なので、クラスそれぞれが「番号!」といって現在の人数を数える。
これを決められた礼式で行う必要があるため、いきなり点呼に参加することは難しいのだ。
ちなみにこういった場でクラスを仕切るのはクラスを代表する総代であり、総代は常にクラスの先頭に立つ。
入校して間もない頃はまだ総代が確定していないが、ある程度の日数が経過すると教官から総代が1名指名されることとなる。
夜の点呼が終わるのは大体午後10時前後で、消灯時間までは残り約1時間しかない。
警察学校の生活に慣れてこればこの1時間でも余裕はできるのだが、入校当初はこの1時間が非常に短く感じる。
指示されている翌日の準備をしなければいけないし、洗濯や歯磨きもこの時間にまとめて行うことが多い。
なにより実習日誌を書き上げなければいけないので、とにかくこの時間帯はみんなが慌ただしい。
ちなみに洗濯については洗濯機の数に限りがあるため、洗濯機を回すタイミングを逃すと大変なことになる。
もちろん、日中は授業を受けているため洗濯をする時間はない。
だから就寝前の時間で洗濯機を回して、ベランダに干す作業までをこなさなければいけない。
この時間にできないと、最悪の場合は洗濯をせずに同じシャツや下着などを使い回さなければいけなくなってしまう。
気が利く者は「一緒に洗濯しよう」と声をかけてくれるのだが、中には1人だけで勝手に洗濯機を使う身勝手な者もいる。
もちろん1人で洗濯機を使うことが悪いことではないのだが、洗濯機の数には限りがある。
なので、複数人で一緒に洗濯機を使った方がより多くの人が使えるので、”洗濯難民”が減るのである。
この辺の”空気が読めるか読めないか”は如実に個人差が現れ、同期の関係性にも大きく響くので、警察学校ではあまり個人プレーに走らない方がいい。
「明日の準備ってなんだっけ?」
「そろそろ実習日誌集めるよ!」
警察学校の就寝前の時間はこのようにバタバタしている。
こうやって慌ただしくしていると机や部屋の整理整頓ができないままタイムリミットとなり、部屋が汚い状態になりやすい。
消灯時間に寮を巡回する教官はこのように汚い部屋を楽しみにしている。
教官にとっては初任科生を叱る絶好のチャンスだからだ。
この日の夜も、消灯時間に各部屋で教官の怒鳴り声が響いていた。
「俺の部屋には来るなよ…」
私はベッドに入りながらこう願っていた。
願いが通じたのか、この日は教官に狩られずに済んだ。
こうして警察学校2日目が幕を閉じた。
-続く-
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