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【実録警察学校#9】同部屋の織田が退職、これで二人目の退職者に

私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第9話です。

第8話は下記のリンクからご覧ください。

 

入校して初めての週末を乗り越えました。

ここで入校してからようやく約1週間が経過したことになります。

そして、この日からは入校2週目が始まります。

前日に同部屋の織田が退職を決意し、周りにいる私たちの心も揺れています。

果たして、退職を決意した織田はどうなったのか…?

 

 

入校して1週間、日常生活が恋しい

警察学校に入校して初めての週末を過ごし、また月曜から新しい1週間が始まった。

ここまでくると警察学校の生活リズムはなんとなくわかってくるし、疲れることには変わらないが早朝に起きてランニングをするのにも違和感を感じない。

それでもここまで携帯電話は取り上げられたままだし、警察学校の外にも一切出ていない。

なんならテレビも見ていないし、世間でどんなことが起きているのかも知らない。

「次にどんなことが待っているのか」という不安とも戦いながら過ごした5日間であったが、平穏な日常生活が恋しくなる頃でもある。

こんな縛られた生活は後にも先にも警察学校だけだったが、とりあえずの目標は初めての外泊である。

 

警察学校に入校して最初の約一か月は携帯電話も触れないし、外に出ることもできない。

精神的にも肉体的にも最初が一番辛い時期かもしれないが、それでも一か月耐えれば初めて外泊する機会がやってくる。

外泊といってもただ実家に帰るだけなのだが、なにより日常の空気を味わいたい。

入校して5日間が経って警察学校の生活リズムもわかってきたところで、次は「早く帰りたい」と思うようになる。

また当時は警察官になることを応援してくれた彼女もいたため、早く彼女にも会いたかったし、警察学校で頑張っていることを報告して安心させたかった。

なのでここからは「実家に帰る」ことを目標に訓練を頑張ることにした。

 

そしてこの日も起床、急いで準備、大声を出しながらのランニングをこなし、1日が始まった。

ランニングに関しては事前にある程度の準備をしてきたため問題なくついていけたが、潰れてしまったのはである。

大声を出す練習はしていなかったので、常に声を出さなければいけない警察学校で早々に声が潰れてしまった。

それでも声が潰れたからと言って声を出さなくていいなんてことはなく、ガラガラ声でも出し続けなければいけない。

声が潰れるということは声を出しているという証拠でもある。

 

 

織田がクラス行動から離脱、斎藤教官の元へ

早朝のランニングを終え、朝食をとり、その後は各自の清掃場所へと向かった。

このとき、織田の姿がないことに気付いた。

ランニングのときに織田はみんなと一緒に走っていたことは間違いないが、いつの間にかいなくなっていたのだ。

恐らく織田はクラス行動から離脱し、退職を報告するため斎藤教官のところに向かったと思われる。

そんな状況の中、私たちは清掃を終えて朝のホームルームに向けて準備するため寮に戻った。

ここでも織田の姿はなく、同部屋だった私たちの方が明らかに動揺していた。

「本当に織田は退職してしまうのか」

しかし、まだまだ他人のことを気にしている余裕は私たちにはなかったし、自分のことだけで精一杯だった。

時間に追われる中、動揺しながらも準備をして教場へと向かった。

 

教場へ到着し、斎藤教官がやって来るのをただじっと座って待っていた。

織田がいない分、教場の座席は1つぽっかり空いてしまっている。

結局、織田はこの時間になっても戻ってこなかったが、私たちは斎藤教官を待った。

しかし、時間になっても斎藤教官はやってこない。

いつもなら必ずホームルームの時間通りに教場に来るのだが、この日は違った。

私はこの状況をなんとなく察し、きっと織田の件で時間がかかっているのだと思った。

そんなことを考えていると、いつもの足音が聞こえてきた。

ようやく斎藤教官が教場にやってきたのである。

 

これまで習った通り機敏な動きで気を付けから敬礼を行い、大きな声で朝の挨拶をした。

意外にも斎藤教官の口からは敢えて織田のことに触れられることはなかった。

だが、織田はその後も戻ってくることはなく、結局どうなったのかわからず終いだった。

 

 

本格的に警察学校での授業が始まる

この日から本格的に警察学校での授業が始まった。

これまでは色々な手続きや生活の仕方について説明を受けることが多かったが、それも一段落ついたことから授業が始まることとなった。

警察学校の授業は刑法、刑事訴訟法、地域、交通などそれぞれ担当の教官が決まっており、その教官が教場にやって来て授業を行う。

授業の流れとしては普通の高校と同じようだ。

ただ、授業を担当する教官はこの時点ではほとんどわかっていない。

なので、授業を担当する教官とは授業が始まってからほぼ初対面となる。

教官の中には落ち着いた口調で話す教官もいれば、とにかく威圧的な教官、嫌味ばかりを言ってくる教官など特徴は様々だ。

一応教官の名誉のために言っておくと、わざと演技をしている教官がほとんど。

それぞれ特徴があるし、怒るポイントも違うので、教官のクセを見抜いておくことは意外と重要だ。

 

ここで授業を受ける際に注意しなければいけないことを紹介しておく。

警察学校の授業はそれぞれ持ち物(教科書や参考書)が決まっているが、たまに違う準備をするよう指示されることがある。

そのため、事前の準備をしっかりしておかないと痛い目を見ることになるので要注意だ。

よくありがちなのは忘れ物をすることである。

授業中に忘れ物が発覚すると、授業はそこで止まる。

厳しい教官であれば「お前らのやる気はそんなものか。もう授業やめるわ」と言って教場を出ていってしまうし、「今すぐ取りに行ってこい!」と激怒する教官もいる。

また連帯責任としてその場で全員に筋トレを命じる教官もいるし、とにかく忘れ物はなにかしらのペナルティが付きものだ。

私自身もしっかり準備をしたつもりが、いざ授業になると忘れ物に気付くなんてことは何回かあった。

ここでポイントになるのが忘れ物をしたことを正直に申告できるかどうかである。

忘れ物をしたことが発覚すれば当然怒られるし、それだけクラスに迷惑をかけることになるから正直には言いづらい。

だが、もし仮に教科書を忘れた状態で授業を受けていれば授業についていくことができないし、教官から「ここを読め」と指名されたときに困る。

そのため正直に言うべきか隠し通すべきかで悩むところではあるが、もちろん正解は正直に言うことである。

忘れ物をした場合はもう正直に言うしかない。

警察学校において嘘をつくことや隠し事をすることはとにかく怒られるので、最初に正直に言っておいた方が楽なのである。

これは現場に出てからも必要になってくる考え方なので、ミスを隠す癖は絶対につけない方がいい。

 

 

織田の退職がついに教官の口から告げられる

警察学校では、授業中でも問答無用に教官から怒られる。

特に最初の1か月はどんな些細なことでも怒られ、もはや授業どころではない。

だから授業は座って聞いていればいいなんてものじゃなく、授業中でも緊張感が続くことには変わらない。

一般的な座学の授業に加え、柔道・剣道・逮捕術などの術科訓練も間に入ってくるため、朝から晩まで授業を受けるとなかなか疲れる。

そんな授業を初めてこの日体験し、1日を終えた。

本格的な警察学校での生活が始まったのだと実感したが、なにか引っかかっている点がある。

そう、織田のことだ。

結局1日の授業を終えても織田はクラスに戻ってこず、その処遇についてはわからないままだった。

もしかしたらまだ戻ってくる余地はあるのか、それとも既に退職してしまったのか、同じ部屋だっただけに織田のことがとても気になった。

しかし、授業を終えて夕食をとり、入浴の準備のため寮に戻ると1つの異変を感じた。

私は同じ部屋だったのですぐに気づいたのだが、織田の自室がぽっかりと空になっていたのだった。

もうこの時点で察したのだが、どうやら織田はあのまま退職してしまったようである。

「本当に辞めちまったのか…」

警察学校で初めて同部屋になった同期であり、憎めないキャラだった織田は他の同期よりも少し特別な存在だった。

織田の退職を止められなかったのかと自問自答をしたが、結果的にこれで正解だったのかもしれない。

クラスについていけない者は辞めるしかない。

警察学校とはそういうところである。

 

入浴を済ませると、私たちのクラスは教場に集合するよう指示を受けた。

教場に斎藤教官がやって来ると、ようやく織田について説明があった。

織田の自室が空っぽだった時点でわかってはいたが、織田はやはり退職したとのことだった。

正式に斎藤教官の口から発表されたのである。

案の定、斎藤教官は容赦ない言葉を私たちに浴びせた。

「辞めたいと思ってるやつはいつでも俺のとこに来い。すぐに辞めさせてやるよ。」

織田を労う言葉もなければ、むしろ斎藤教官は喜んでいるようにも見えた。

本当に恐ろしい人だが、ここで弱気になるわけにはいかない。

自分自身苦しい時代を経て警察官になったのだから、「こんなことには負けないぞ」と私はもう1度気合を入れ直した。

 

 

寮の部屋には重たい空気が流れる

この日も夜は教練の訓練を行い、寮に戻って消灯時間まで慌ただしい時間を過ごした。

昨日までここにいた織田の姿はもうない。

5人いた部屋員が4人になって、残された4人は各々思っていることはあっただろうが、敢えて織田の話題が出ることはなかった。

残酷かもしれないが、退職者のことを思う余裕なんてない。

まだまだこれくらいの時期は時間に追われ、自分のことだけで必死なのである。

それでもついつい「自分も辞めようかな…。家に帰りたいな…。」なんていう風に考えがちだが、このように考えたら終わり。

実際に退職の連鎖というのは起きやすいし、こんな生活から脱出できた退職者がうらやましく見えてしまうこともある。

だが、そう考え始めるとそこで緊張の糸は途切れてしまい、本当に警察学校を辞めたくなってしまう。

 

私も織田が退職して動揺しなかったわけではない。

「辞めようかな」と言っている者が本当に辞めてしまったことに驚いたし、なにより織田の自室がぽっかり空室になっていることがなんとも寂しかった。

しかし、ここで生活している意味をもう1度よく考えた。

私は警察官に憧れ、わざわざ会社員を辞めてまで警察官になったことを思い出し、揺れる心を落ち着けたのだ。

「自分は絶対に辞めない」

改めてそう心の中で誓った夜だった。

 

-続く-

 

 

 

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