実体験を基に警察学校での体験記をつづっていく【実録警察学校】をスタートさせます。
私が経験した警察学校でのリアルな生活を物語風に紹介します。
(内容はすべて実話ですが、登場人物は仮名です)
入校したときの緊張感や警察学校での苦労、同期との絆、教官との関係など今でも鮮明に覚えていることを綴っていきます。
私が警察学校にいたのはもうずいぶんと前ですので、当時と比べると多少の違いはあるかもしれませんが、警察学校のことをリアルに感じて頂けるかと思います。
これから警察学校に入校する方、警察官に興味のある方の参考になればと思います。
合格者説明会で洗礼を受ける
私が警察官の採用試験に合格したのは26歳のとき。
平凡な会社員生活に飽きを感じ始め、「なにか面白い仕事はないか」と考えていたとき、警察官に憧れを持ったことから警察官を目指すことにした。
会社員を退職し、様々な苦難を乗り越えて警察官採用試験に合格したのは8月上旬。
私は転職組であったため、警察学校に入校するのは9月末とのことであった。(新卒だと春採用になることが多い)
そう、採用試験合格から警察学校入校までわずか1か月半ほどしかなく、合格が決まってからは慌ただしい日々を過ごしていた。
自動車学校に通って二輪の免許を取得したり、一人暮らしをしていたため引っ越しをしたりと1か月半はあっという間に過ぎていった。
警察官になればしばらく旅行にも行けないと思い、旅行にも出かけた。
その間に合格者説明会(警察学校入校説明会)が警察学校であり、まずはここで洗礼を受けた。
まだ正式には警察官の身分ではないし、ただ説明を受けるだけの日だったが、いきなり教官が怒鳴り始めたのだ。
「え?マジ?なんだこれ…」私は率直にこう思った。
警察学校が厳しいところなのは重々承知していたが、まさか説明会という場で洗礼を受けるとは思っていなかった。
この説明会の参加者は約90人。
この約90人が同じ日に警察学校に入校する同期でもある。
この説明会では警察学校でのクラス発表もされ、担任になる予定の教官の紹介もされた。
また警察学校で必要になる生活用品などについても説明を受け、さらにこの場で制服の採寸も行われた。
警察官の制服やカッターシャツはすべて支給品であり、お金はかからない。
定期的に指定したサイズのものが支給され、警察署に赴任してからも年に2~3回ほど支給されるものである。
合格者説明会で制服の採寸があることは事前に知っていたため、私は「警察官の制服を初めて着る機会だから記念撮影でもしようかな」なんてことを考えていた。
しかし、そんな甘い考えは一瞬にして吹き飛ぶ。
私が制服採寸のため列に並んでいたところ、いきなり怒号が響いたのだ。
「お前は名前くらいはっきり言えんのか!!」
怒号を響かせていたのは教官たちだった。
そう、制服の採寸をするのは教官であり、私たちは”採寸をお願いする立場”であったのだ。
いきなり厳しい上下関係を目の当たりにし、その異様な雰囲気を一瞬で悟った私は反射的に「怒られたくない…」と思い、自分の番がきたら大きな声であいさつをした。
私はなんとか怒られずに済み、その場をしのいだ。
「制服で記念撮影」なんて今思えばとんでもない考えだった。
重たい雰囲気のまま合格者説明会は終了し、警察学校で同期になる人たちともまともに会話をすることもできなかった。
「警察学校ってホントにやばいところだな…」
私は帰路に就きながら何度もこう思った。
ついにやってきた入校の日、集団でバスに乗り…
合格者説明会で警察学校の洗礼を受けた私だが、警察官への憧れは揺るがなかった。
むしろ「あんな特殊な世界で生活したらいい経験になりそうだ」と前向きに考えた。
とは言っても多少不安な気持ちはあり、ドキドキしながら入校の日を待っていたのは間違いない。
ただ、自由な時間がわずか1か月半しなかったのは余計なことを考えずに済むし、逆に幸いだったのかもしれない。
そして、ついに迎えた警察学校入校の日。
私は気合を入れて中学生以来、限りなく坊主に近いほど髪を短くした。
前日には長時間彼女との電話も楽しんだ。
警察学校に入校すれば、しばらく彼女会えないどころか連絡すらとれない。
もうあとは警察学校に向かうだけである。
私の自宅から警察学校までは結構な距離があり、早朝に家を出なければ間に合わない。
それを心配した親が「駅まで送ってくよ」と言ってくれたが、私はそれを断り最寄り駅までは歩いて行くことにした。
大きな荷物もあったが、なんとなく一人でいたかったからだ。
そして電車を乗り継ぎ、警察学校の最寄り駅まで到着した。
最寄り駅と言ってもそこから警察学校まではバスで30分ほどかかる。
警察学校は本当に山の中にあるところだった。
最寄り駅に到着すると、警察学校の職員が「警察学校入校の方はここに集まってください」というプラカードを持って立っていた。
そして、その周りには自分と同じように坊主に近い髪型で大きな荷物を抱えた者たちが集まっていた。
そう、警察学校までは個人的に行くわけではなく、入校者が揃ってバスに乗っていく形式だった。
バスに乗ったらもう終わり。
警察学校に行くしかないし、後戻りはできない。
私は覚悟を決めてバスに乗り込んだ。
バスは一般的な民間運営の路線バスだったが、車内には警察学校入校者しか乗っていなかった。
特別に手配されたものだったのだろう。
車内の雰囲気はと言うと、みんな不安を解消するためなのか、隣同士で会話をしている者が多かった。
中には笑っている者もいた。
とてもこれから警察学校という地獄に向かうバスとは思えないほどだった。
私も隣に座った同期と色々話をした。
「こないだの説明会やばかったよね~」なんてことから「警察学校ではよろしくね」という会話まで、ごくごく普通の会話を楽しんだ。
このとき私は「みんなと仲良くすれば意外といけそうだな」と思った。
たかだか同期と会話をしただけだが、なぜか少し安心したからだ。
しかし、悲しきかなこの思いもバスを降りた瞬間に吹き飛ばされるのである。
バスを降りた瞬間、またも怒号が吹き荒れる…
同期と会話を楽しんでいると約30分はあっという間だった。
遂に警察学校に到着したのである。
それぞれが大きな荷物を抱えているため、バスを降りるのにも時間がかかる。
別にわざとゆっくりやっているわけではない。
ところが、バスを降りた瞬間から教官たちの怒号が吹き荒れたのである。
「てめぇらなにチンタラしとんだ!!早く降りろ!!」
まだバスの車内で降りる順番を待っていた私は「誰かいきなり怒られてる…」と恐怖を感じた。
そのため、私や同じように降りる順番を待っていた同期は急いでバスを降りた。
バスを降りると、複数の教官たちが私たちのことを睨むようにして仁王立ちしていた。
そして教官の案内で、入校者は講堂に集められた。
講堂とは警察学校の中にあり、入校式や卒業式が行われるところである。
講堂に入った私は、異様な雰囲気をすぐに感じ取った。
教官たちが我々初任科生を囲うように待ち受けており、顔つきも怖い。
とにかくこのときの異様な雰囲気は今でも忘れられない。
ここでは入校の手続きが行われた。
予定通りの合格者がちゃんと来ているかどうかの確認だ。
私は合格者説明会でクラスは4組と言われていたが、当日になって3組になっていた。
よくよく見ると、合格者説明会の時点ではクラスが4組まであったのが3組までとなっていた。
おそらく合格者説明会の後、約30名ほどが辞退したのだろう。
クラス1つがまるまるなくなっていた。
そしてそれぞれクラス別に分かれ、担任教官の前で申告をする。
申告とは教官の前に立ち、「私は○○と申します。よろしくお願いします」と挨拶をするようなものである。
ちなみにこの申告というのは、警察署でもことあるごとに行われている。
たとえば警察学校を卒業して警察署に赴任したとき、署長に対して申告が行われる。
いわゆる警察の礼式の1つである。
ただ挨拶をするだけなのだが、それが警察学校では一筋縄ではいかない。
教官たちは「声が小さい!!やり直せ!!」や「なんだお前やる気あんのか!?もう帰っていいぞ!!」なんていう追い込み方をしてくる。
講堂はこんな怒号が響き渡っていたのだ。
民間企業からやってきた私としてはもう衝撃という言葉しかない。
「なにこれ?やばい…」こう思った私は、他の者に負けないよう大きな声で元気よく申告した。
私はなんとか教官への申告を終えて着席した。
着席しても背筋を伸ばしてただ真っすぐを見つめるしかなかった。
不要な動きをすればすぐに教官から怒られるからだ。
その後、他の者も一通り申告が終わって着席するころだった。
ここでまさかの出来事が起きる。
これまたとんでもない衝撃だった。
申告が終わり、まさかの出来事が…
私は教官への申告を終え着席した。
ただ真っすぐしか見れない状況だったが、それでも横目でこっそり周りの状況を見ていた。
すると、ここで衝撃の発言を耳にする。
「すいません、もう辞めます…」
ある1人の男が教官にこう告げたのである。
警察学校の洗礼にびっくりしてしまったのだろう。
その男は本当にそのまま荷物を持って帰ってしまった。
私は「おいおい…。こんなことあるのかよ…」と衝撃を受けた。
しかし、それを聞いていた教官はまったく動じていなかった。
「帰りたければ帰れ」と言わんばかりだった。
後述するが、警察学校は入校した全員が卒業するわけではない。
当然脱落者も出る。
脱落=退職である。
しかし、入校初日のわずか1時間程度で退職する者がいたのは、後から考えてもすごいことだった。
いきなりの脱落者を目の当たりにした私は、一層の不安を抱えたまま入校式を迎えることとなった。
-続く-
>>【実録警察学校】第2話「食事ものどを通らないほどの緊張感が続き…」
参考になりました。
有り難うございました。