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【実録警察学校#12】入校から約1か月、初めての外泊を迎える

実録警察学校 初めての外泊
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藤田 悠希
元警察官。会社員を経て警察官に転職し、都市部の県警で8年間勤務。主にパトカー勤務を行い、数々の事件検挙や交通取締りに従事した。元警察官の経験から幅広く警察官情報を発信中。

私の警察学校での実体験をもとにお送りする【実録警察学校】の第12話です。

第11話は下記のリンクからご覧ください。

【実録警察学校#11】指導強化期間も佳境に突入

警察学校に入校して3週目に突入し、遂に初めての外泊まで最後の1週間となりました。

指導強化期間も佳境に入り、追い込みの強度が増す中で残す行事は学校長視閲のみ。

どれだけ怒られても、どれだけキツいトレーニングを課せられてももはや自宅に帰ることしか頭にありません。

そんな当時の状況をお楽しみください。

初めての外泊まで残り3日

警察学校 初めての外泊まで残り3日

遂に指導強化期間の終わりが見えてきた。

改めて説明しておくが、指導強化期間とは警察学校に入校して最初の1か月のことを指し、警察学校の厳しさを叩き込まれる期間のことである。

この指導強化期間は特に教官が厳しくなるし、それだけ退職者も出やすい。

ただし、この期間を乗り越えれば警察学校の生活には慣れるし、退職者もほとんどいなくなる。

それに加え、なにより指導強化期間が終われば外泊ができるようになるという部分が非常に大きい。

なので、とにかくこの指導強化期間さえ耐えることができれば警察学校を卒業することはそこまで難しいことではない。

今一度、警察学校について考えてみて欲しい。

早朝からトレーニングを行い、その後も分刻みの忙しさで1日を過ごし、ことあるごとに教官から怒られる生活。

休憩時間でも一人になることはできず、周りには常に同期がおり、自由なんてほとんどない。

さらに携帯電話すら触れない上、警察学校の敷地から出ることもできない。

こんな息苦しい生活を経験したことがある人はほとんどいないだろう。

だが、警察学校に入校すればこの生活が当たり前となる。

どれだけの人がこの生活を平然と過ごすことができるだろうか。

ストレスは溜まるし、教官から追い込まれて精神的にも辛い部分が出てくる。

携帯を見たい、友達と遊びたい、彼氏彼女と会いたい、一人の時間を楽しみたい、外出したい…数え切れないほどの思いが浮かび上がってくるのが普通だ。

そして、これらすべてを叶えるのが外泊なのである。

それだけ外泊というのは頭から離れないし、外泊を目標に頑張れると言っても過言ではない。

そんな初めての外泊まで残り3日のところまで来た。

疲労もピークに達しているところだが、ここでもう1つギアを上げ、残り3日を頑張っていく。

学校長視閲訓練の仕上げ

警察学校 残すは学校長視閲のみ

そして指導強化期間の最後のイベントは学校長視閲を残すのみとなった。

これまで訓練して習得した点検教練を学校長に見てもらい、合格点がもらえればそこで指導強化期間は終わる。

この学校長視閲に向けて連日厳しい追い込みを受けてきたので、なんとか乗り切って気持ちよく家に帰りたいところである。

ちなみに学校長視閲が入校して3週間後の金曜日だったので、これさえ終わってしまえば本当に外泊できるという日程だった。

あとは本番が上手にいくかどうかだけだが、さすがに訓練を重ねてきたので3クラス全体でも教練の動きは揃うようになった。

大きく乱れることもなくなり、訓練の成果を感じることができた。

あとは本番を迎えるだけだ。

もはや同期全員が外泊することしか頭になかったが、それが現実に近づくのを示すように外泊届の提出を教官から指示された。

警察学校だけでなく、警察官という職業は自宅以外で寝泊まりする場合は必ず外泊届(旅行届)を上司に提出しなければならない。

警察官は災害や有事の際には休日だろうが深夜だろうが呼び出しを受けることがあるので、自宅にいない場合はあらかじめ報告しておかなければならないのだ。

これを怠ると万が一のときに出勤することができず、最悪の場合は処分を受けることにもなる。

そのため、警察学校から自宅に帰る場合も必ず外泊届を教官に提出しなければならない。

「自宅に帰るのに外泊?」と思われたかもしれないが、細かい説明をしておくと自分の住民票は警察学校の住所となっているため、入校中の”自宅”は警察学校となっている。

つまり実家に帰る=外泊(旅行)に当たるので、しっかりと届出をしておかなければいけないのだ。

なので、「土日は自宅に泊まる、日曜に警察学校に戻る」という届出を作成し、教官に提出することになる。

初めての外泊までカウントダウンが始まったような気がした。

外泊という夢のような時間が本当に手の届くところまで来ている。

同期と談笑する余裕も

警察学校 同期と談笑する余裕も

初めての外泊まで残り2日となった。

ここまでくるとさすがに警察学校の生活リズムには慣れるし、教官に怒られることも慣れる。

疲労は確実に溜まり、精神的にはやや辛い部分はあるが、それでも全体的に慣れてくることで余裕は生まれてくる。

なにより時間の使い方がわかってくるというのが一番大きい。

起床してから就寝するまで大体の行動が読めてくるので、逆算して時間を使えるようになる。

もちろん時間に追われる生活は変わらないし、まだまだ失敗も色々起こしてしまう。

それでも警察学校という閉鎖的な空間の生活に慣れてくるだけで心の持ち方は変わってくる。

既にクラスからは2名が退職してしまっているが、自分自身は辞めようと思うことはなかった。

そして、生活に慣れることでようやく同期とも談笑する時間ができるようになってきた。

談笑といっても就寝前のわずか数分であるが、話ができるだけでも入校当初とは違う。

5人いた部屋員は織田が退職したことによって4人となり、織田が生活していた部屋はぽっかりと空室となっている。

織田がいなくなった直後は動揺もあったが、なんとか部屋員で励まし合って気持ちを立て直してきた。

同じ部屋の同期とはそれだけ距離が近くなるため、自然と接する機会が多くなる。

自分自身も未だに警察学校入校時の部屋員はしっかりと覚えているし、なんだかんだで思い出深い。

そんな部屋員とはこの時期「家に帰ったらなにをするか」という話で持ち切りだった。

家に帰ったら趣味を楽しみたい、家に帰ったら思いっきり寝たいなど、各自が”釈放後”の想像を膨らませていた。

気のせいか、この時期になると教官が寮を巡回する回数も減っていたように感じた。

また、入校当初は風呂も教官が目を光らせてゆっくり入らせてもらえなかったが、浴場まで教官がついてくるということもなくなっていた。

そして、いよいよ翌日は初めての外泊の日。

外の空気が吸える、携帯が返ってくる、家で寝ることができる…

私は大きな期待を胸に布団に入り、眠りについた。

最後の行事 学校長視閲

警察学校 最後の行事は学校長視閲

朝がきた。

警察学校で一番思い出深い特別な朝と言ってもいいだろう。

とんでもない大事件が起きない限り、この日の夕方には帰路に就いているからだ。

警察学校に入校してたかが3週間の話だが、あまりにも生活が変わったので、この日は1つの区切りとなる日だった。

時間に追われ、なにかある度に教官に怒鳴られ、常に周りには同期がいる自由のない生活…。

入校前にある程度の覚悟はしていたが、それでも非常に厳しい3週間(指導強化期間)だった。

もう1度言っておくが、これで警察学校の生活が終わるわけではない。

むしろここからが本当の始まりだし、この先の生活の方が圧倒的に長い。

ここから試験や検定も始まっていくので、もっと大変な生活になるのは間違いない。

それでも初外泊というのは感慨深いものだったし、忘れられない1日である。

そして、指導強化期間の締めくくりは学校長視閲(がっこうちょうしえつ)。

「私たち初任科生はこの3週間で警察礼式をしっかり身に付けました」という成果を警察学校のトップである警察学校長に点検してもらうのだ。

もちろん教官からは「視閲がうまくいかなかったら帰らせん。お前らはもう帰る気分なんだろうけどな。甘く見るなよ」と釘を刺されていた。

まるで小学生をびびらせるような発言だったが、一応私たちは気を引き締めて臨んだ。

なぜなら”斎藤教官なら本気でそういうことをやってくるかも”と思えるほどの人だったからである。

だから手を抜くことはなかったし、結果的に学校長視閲は問題なく終わった。

練習では幾度となく全体の息が合わず、本番に向けて大いに不安はあったが、問題なく終われたことでそこに確かな成長を感じた。

学校長からも合格点をもらい、同期全員が安堵の表情を浮かべた。

学校長視閲が終わったのは昼過ぎ。

初外泊まで残り3時間程度となった。

外泊について入念な指示を受ける

警察学校 外泊について指示を受ける

学校長視閲が終わり、クラスは教場に集合するよう指示を受けた。

外泊の時間が迫り、みんながそわそわしている状況だったが、まだ気を緩めることはできない。

いつもと同じ緊張感を保ち、斎藤教官の到着を待った。

教場にやってきた斎藤教官の表情は相変わらず険しかった。

「さっきの見たけどよ、あんな下手くそな動きの奴ら初めて見たわ。よくあんなので合格点もらえたな。まあ下手すぎて同情してもらったんだろうなぁ」

まず、斎藤教官は先ほどの学校長視閲について辛口なコメントを発した。

斎藤教官が学校長視閲についてどんな評価をするのかは少し気になっていたが、やはり厳しい評価だった。

敢えてこのような発言をしているのだろうが、相変わらずその辺りは徹底している人だった。

そして、斎藤教官は続けて言った。

「お前らはもう家に帰る気分なんだろうけどな。あんなもの見せられてがっかりだ。帰るなら帰るでいいけどよ、もうやる気がないやつは学校に戻ってくるな」

遠回しに私たちの外泊を認めてくれているが、どうやらあまり納得がいってないようだった。

でも仕方ない。

斎藤教官が初任科生を褒めることなんて想像できないし、外泊を快く思うような人でもない。

なんだかすっきりしない感じだったが、それでも時間は刻一刻と進んでいく。

教場には緊張が張り詰めていたが、斎藤教官からは外泊について入念な指示を受けた。

指示事項については次の通りだ。

  1. 帰宅中に寄り道をすることは禁止
  2. 休日でも同期同士で飲みに行くことは禁止
  3. 自宅にいても門限は午後10時
  4. 教科書や参考書を持ち出すことは禁止

さらに追加で作文の課題を与えられた。

どうやら休日といっても思いっきり羽を伸ばせるわけではなく、課題を与えられることによって色々と制限が出てくるようだった。

特に門限については絶対に守るよう言われた。

しかし、私は門限について「自宅にいるんだから関係ない。少しくらい大丈夫だろう」と思った。

この気の緩みが後々痛い目を見ることになるとはこのとき夢にも思わなかった。

ついに自宅に帰宅する

警察学校 ついに自宅に帰宅する

午後5時30分。

ついにこのときがきた。

最初に外泊するときの流れを説明しておくと

  1. いつも通り夕方の掃除を行う
  2. 寮に戻って急いでスーツに着替える
  3. 教場に集合する

となっている。

最終的にはスーツに着替えて荷物を持った状態で教場に集合しなければならず、結構慌ただしい時間となる。

さらに警察学校から最寄り駅までのバスも時間が決まっているので、遅れるわけにはいかない。

そして、この日も急いでスーツに着替え、教場に集合した。

教場では斎藤教官から改めて外泊についての指示を受け、携帯電話も手元に戻ってきた。

人生で一番過酷な3週間と言っても過言ではない日々だった。

これまでの日常生活から大きく環境が変わり、肉体的にも精神的にも大変な3週間を過ごした。

毎日大きな声を出していたため、声はガラガラ。

緊張して満足に食事がのどを通らない日もあったため、明らかに体も痩せている。

それでもこの日を楽しみに頑張ってきた。

あとはバスに乗るだけである。

そして、警察学校を出発するバスに乗った。

目的地は警察学校の最寄り駅。

バスで15分くらいだが、バスの車内では私語禁止。

携帯電話を触ることも禁止されていたため、まだ携帯の電源は入れていない。

なにより久しぶりの外の空気を吸えることが幸せだった。

警察学校以外の景色を見ることすら新鮮で、教官の目を離れることができたのも嬉しかった。

そんな色々な思いが頭をよぎる中、バスは駅に到着した。

ここからは自由だ…と思った矢先、駅の改札付近には私服を着た警察学校の教官が鋭い眼差しで私たちに目を光らせていた。

「なぜ教官が…?」と驚きを隠せなかったが、ここは警察学校ではない。

一般人も行き交っている駅の構内だ。

そのため、教官が私たちに声をかけてくることはなかった。

斎藤教官からも指示を受けていたが、つまり「真っすぐ家に帰れよ」という無言のメッセージだったのだろう。

一瞬ヒヤリとしたが、私たちは黙って改札を通過した。

電車に乗ってからも「教官が見ているのではないか」という恐怖があったが、さすがに電車内に教官はいなかった。

ここでようやく携帯電話の電源を入れた。

3週間ぶりに電源が入った携帯には今まで見たことがないくらいの通知が届いていた。

主に私のことを心配してくれていた彼女からの連絡だったが、それにしてもすべてを読むのには時間がかかった。

電車に揺られながらじっくりと携帯を確認し、そうこうしていると自宅の最寄り駅に到着した。

久しぶりに見る風景である。

前回この駅を利用したのは警察学校に入校した日の朝だ。

なんだか感慨深いものがあったが、私が一目散に向かったのはコンビニだった。

この3週間、警察学校で3食しっかり食べていたとはいえ、食事を味わう感覚なんていうことはなかった。

だから無性に甘いものを口にしたくなったし、なぜかお金を使いたい気分になったので、お菓子やジュースを買い込んだ。

袋いっぱいの買い物を終えた私は自宅に向かって歩き出した。

当時は実家に住んでいたため、自宅では両親が私の帰りを待っていた。

声がかすれていたため、その声だけで警察学校の大変さが伝わったようだった。

早速体重計に乗ってみると実に5キロも体重が落ちていた。

3週間で5キロも落ちるなんてなかなかすごいダイエットだが、それだけストレスがあって苦労していた証拠だろう。

彼女にもすぐに帰宅したことを報告し、久しぶりの電話を楽しんだ。

この日は金曜日だったので、少なくとも日曜日の昼まではゆっくりできる。

疲れがピークだっため、日付が変わる前に眠りについてしまった。

束の間の休日をどれだけ楽しむか。

頭の中にはそのことしかなかった。

-続く-

【実録警察学校#13】念願の初外泊 まさかの奇襲攻撃を受ける

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