おっしゃる通り、警察官はとても特殊な職業です。
不規則勤務、長時間勤務、命の危険、司法書類の作成など、警察官の特殊性を考えたら数え切れないほど挙げられます。
そのため、実際にツイッターのDMでも「警察官になるために必要な資格はありますか?」という質問を頂くことがあります。
結論を申し上げると、警察官といっても根本的に”社会人”という面では一般的な会社員と変わりはありません。
当然ながら警察官でも社会人としてのマナーはわきまえておかなければいけませんし、社会人として最低限の知識も持っていなければいけません。
警察官になるために必要な資格は特にありません。運転免許さえ持っていれば問題ないです。特別な資格を持っているからといって仕事に与える影響はほとんどありません。
ただし、警察官になるために必要な資格はありませんが、警察官に必要なスキルというのは存在します。
先ほども説明した通り、警察官と言えども根本は一般的な会社員と変わりありませんので、仕事を行う上で習得しておくべきスキルがあるのです。
この最低限のスキルがあれば「無意味に怒られること」も減るはずですし、むしろ「まずまずできるやつだな」と思われるでしょう。
この記事ではこれから警察官を目指す方に向けて私が警察官として約8年の勤務を経てわかった”習得しておきたい警察官の必須スキル”について解説していきます。
漢字の読み書きの能力
まず、警察官は漢字に強くなくてはいけません。
若手警察官が避けては通れないのが被害届の作成です。
被害届は基本的に手書きで作成するため、漢字の知識がないととても苦労します。
さらに被害届は作成したら被害者に内容を確認してもらわなければいけないので、漢字のミスがあると思いっきり恥をかきます。
厳しい上司だと「それくらい漢字で書けよ!」と叱られることもあります。
一般的にも知られている被害届は手書きで書くことが多いし、その他にも簡単な書類であれば手書きで書くこととなる。
警察官が作成する書類は場合によっては裁判でも証拠資料として採用されるため、厳格に作成しなければならない。よって、漢字で書くべきところは漢字で書く必要があるため、漢字の読み書きが非常に重要となる。
ですので、できるだけ漢字の知識は増やしておくのはもちろん、常に勉強することが大事です。
また、警察官は人名を無線で報告する機会が多々あります。
例えば、藤田悠希(管理人)という人がトラブルを起こしたとします。
トラブルは事件性もなく注意だけで済むものでしたが、無線の担当者から「対象者の氏名を送れ」と言われます。
なので「対象者の氏名は”ふじたゆうき”さんです」と送ればいいのですが、これだけだと藤田悠希という漢字がわかりません。
そのため、「藤の花の藤、田んぼの田、悠々自適の悠、希望の希。これで藤田悠希さんです」と無線で説明しなければいけないのです。
無線で送るということは、相手に内容を伝える手段が自分の声だけになります。
実際に画面や文字を使って説明するわけではないので、相手に伝わるように漢字を1字ずつ説明しなければいけないのです。
これは漢字の知識がないとできないことですし、漢字が分からないとこのような場面では無線が送れなくなります。(若手警察官にありがち)
それに加え、漢字の部首についても覚えておかないと説明ができないときがありますので、部首も覚えておくようにしてください。
特に人名や地名でよく使われる部首は覚えておきたいところです。
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文章作成能力
警察官はあらゆる場面で書類を作成します。
それは先ほど説明した被害届はもちろんですが、他にも供述調書や逮捕手続書、捜査報告書など警察官が作成する書類は多岐に渡ります。
すべてに共通して言えることが「誰が見てもわかりやすい文章」を作ることが求められるということです。
中でも逮捕手続書は事件の概要や逮捕の必要性について書くため、裁判官や検察官も必ず読む書類となりますので、厳格かつ正確に作成しなければいけません。
逮捕手続書は逮捕に関わる重要な書類ですが、突然「お前書け!」と言われることがありますので、逮捕するような事件があったときは心の準備はしておきましょう。
- 被害届
地域課で勤務していると一番作成することが多い書類。書類の基本中の基本でもあるので、絶対に書けるようにならなければならない。
- 供述調書
事件などがあったとき、被害者や目撃者から聞いた内容を書類にする。事件を立件するために重要な書類で、誰が見てもそのときの状況がわかるように客観的に作成する。
- 捜査報告書
「○○の捜査をした結果…」や「○○の聞き込みをした結果…」など、その場面に応じて作成する書類。被害届と並んで書類の基本であるため、書き方を習得する必要がある。
1つの例として、「車上ねらい」の被害届の書き方を紹介します。
このときはなにも異常はありませんでした。
しかし、今日の○時○分頃、出勤しようとして自分の車のところまで行くと、助手席後部の窓ガラスが割られていることに気付きました。
車内を確認すると、後部座席に置いてあったシャネル製の鞄が盗まれていることに気付きました。
この鞄の中には財布、腕時計、名刺入れなども入っていました。
このように私は盗難の被害に遭いましたので、被害届を提出します。
被害届は大体このように書きます。(被害者目線で書く)
これくらいの内容のものをその場で考え、わかりやすいように手書きで書くことになります。
ポイントとしては時系列に沿って書くことと余計なことは書かないことです。
多少ミスをしても訂正印を押すことにより訂正することは可能ですが、あまりにも訂正印が多いと見た目が汚い書類となってしまいます。
(訂正印が多い書類は印が丸いことになぞって、「書類に花が咲いている」や「書類に花火があがっている」などと揶揄されます)
被害届の訂正印は被害者に押してもらわなければいけないので、「ここを間違えてしまったので訂正印を押してください…」と相手にお願いをしなくてはいけなくなってしまいます。
また、あまりにもミスが多くなってしまった場合は1から書き直すということもできますが、時間がかかってしまい被害者を待たせることになってしまうので、できれば避けたいところです。
さらに厳しい上司だと新しく書き直しをさせてもらえず、「その恥ずかしいものをそのまま出せ」と言われてしまうこともあります。(なお、被害者が署名したあとは書き直しができない)
また、警察官が作成する書類は物語風に順序を追って書くことが多いです。
文章を作成する能力とはとにかく「読み手にわかりやすく」ということなので、漢字の知識はもちろんですが、文章を構成する能力も必要です。
つまり誰が読んでもわかる書類を作らなければいけませんので、普段から本を読んだり、新聞記事を読んだりして、文章に慣れておく必要があります。
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地理や地名の知識
警察官は地理や地名に詳しくないといけません。
例えば職務質問をするとき、相手に対し「今日はどちらからお見えですか?」と質問をしたとします。
そして相手が「○○市だよ」と答えてきたとき、まったく知らない地名だとそこで会話が止まってしまいます。
そこの地名を知っていれば「あー、あの辺ですよね」と返すことができ、スムーズに会話が進みます。
これはなにも職務質問に限ったことではなく、あらゆる場面で色々な地名がでてきますので、ある程度有名な地名と大体の場所くらいは頭に入れておきたいところです。
なにも知らないと「おまわりさん、そんなことも知らないの?」と相手から見下されてしまい、自分のペースで話をすることができなくなります。
警察官は市民と接する機会が多いため、必然的に会話をする機会が多くなる。ときには雑談のような会話をすることもあるが、まったく知らないことを話されたときに教養がないと困ってしまう。
地理や地名を覚えることはもちろん、日頃から様々なことについて教養を身に付けておきたいところ。
それと地名を覚えておくことはナンバープレートを読むときにも役立ちます。
恥ずかしい話ですが、私は新人警察官だったとき、千葉県のナンバープレートで「袖ヶ浦」(そでがうら)という地名が読めず、どこの地名なのかもわかりませんでした。
このとき上司に「そんなことも知らんのか!」と怒られたことを覚えています。
警察官をやっていると、全国各地のナンバープレートを目にする機会があり、ときには上司から「そのナンバー読み上げて」と言われることもあるので、覚えておいて損はありません。
また、地名を知っておくと漢字を無線で説明するときにとても役に立ちます。
例えば「金沢さん」という人がいた場合、「石川県金沢市の金沢」といった説明ができますし、相手もすぐに理解してくれます。
他にも「徳島さん」という人がいれば「徳島県の徳島」や、「大宮さん」という人がいれば「埼玉県大宮の大宮」という説明ができます。
やはりここでも漢字の知識が必要だということがわかってもらえたと思います。
コミュニケーション能力
これは警察官に限った話ではなく社会人として当たり前のことですが、最低限のコミュニケーション能力は必須となります。
もちろん職場内でも上司や先輩とうまくやっていかなければいけませんし、なにより警察官は市民と直接話す機会が非常に多いです。
コミュニケーション能力が低いと市民から「このおまわりさん大丈夫…?」と心配されてしまいますし、聞き出したい話を聞き出すこともできません。
- 被疑者の取調べ
簡単な事件であれば若手警察官でも被疑者の取調べを行うことがある。取調べの極意は相手との距離をどれだけ近付けることができるかどうかなので、コミュニケーション能力が必須となる。
- 市民への聞き込み
警察官は突然色々な家に行って聞き込みをする場面がある。手がかりになるような話を聞き出すのが目的だが、市民から「この警察官に話して大丈夫かな?」と思われてしまうのはNG。単純な聞き込みでも相手に信頼してもらうことが大切。
- 巡回連絡
地域課で交番勤務をする場合、巡回連絡を必ず行わなければいけない。巡回連絡では氏名や生年月日などの個人情報を聞くため、コミュニケーション能力がないと不審に思われ、情報を提供してもらえない。
※巡回連絡…管内の各家庭を訪問し、住民の氏名や連絡先等の情報を確認すること。
さらに職務質問では会話だけで相手と駆け引きすることになりますので、話すことが得意でないと難しいです。
新人警察官でも現場によっては1人で事情聴取しなければいけない場合もでてきますので、コミュニケーション能力はしっかりと身に付けておきたいところです。
また、コミュニケーション能力に加え、警察官ならば「堂々と話すこと」も意識しなければいけません。
市民を前にしておどおどしたり、自信がなさそうに話したりしていると逆に不信感を持たれてしまいます。
これが犯人の前なら「この警察官なら逃げ切れる」と隙を与えることにも繋がりますので、警察官はとにかく「毅然とした態度」が求められます。
あまりにもコミュニケーション能力が低いと、市民から「あの警察官は本物なのか?」という苦情の電話を入れられることも珍しくない。ときには不審者扱いをされることもあるので、こういったことだけは避けたい。
周りを見る広い視野
これは警察官にとって、仕事中でも職場内でも重要なこととなります。
まず仕事中であれば、常に警戒心を持って広い視野で周りを見ることは自分の命を守ることになります。
警察官は命を狙われる職業であることを忘れてはいけません。
極端な話、常に誰かに狙われているかもしれないという意識を持つことが必要ですし、それに伴って周りをよく見ることが大事です。
また、交通事故の現場でも周りに注意しておかないと二次的な交通事故が発生し、最悪の場合巻き込まれてしまいます。
警察官は市民の命を守る仕事ですが、まずは自分の命を守らなければいけません。
全国的に度々警察官が襲撃される事件が相次いでいる。警察官である以上、「明日は我が身」という気持ちで勤務をしなければならない。
常に緊張感を保つことはとても疲れることだが、警察官ならば仕方ない。
そして、職場で周りを見るということは気遣いをするということです。
例えば、コーヒーを飲んでいた上司のコップが空になったらどうするべきでしょうか?
コップが空になったことに気付かないことが一番ダメですが、気付いているのにそのままボーっとしているのもいけません。
正解は「コーヒー飲まれますか?」と聞き、「いる」と言われればコーヒーを淹れ、「いらない」と言われたら「では洗っておきます」という気遣いをすることです。
これは飲み会で上司のグラスが空になりそうなときでも同じですが、相手のことを気にしていないとできないことです。
警察の組織ではこれくらい「できて当たり前」なので、逆にできないと「気が利かんやつだな~」と嫌味を言われてしまいます。
またゴミ箱がいっぱいになっていたら率先して捨てるなどし、常に周囲に目を配っておきましょう。
まとめ
今回は警察官として習得しておきたい必須スキルについて書きました。
今回書いたことは最低限のことですが、なにも警察官だから必須なわけではなく、社会人として必須なスキルだと思います。
また、漢字の知識や文章作成能力、地名を覚えるということは警察官になる前でも習得することができます。
やっておいて損はないので、警察官採用試験の勉強の合間にでもやっておくことをおすすめします。
新人警察官はなにかと「できるやつかどうか」を見られてしまうので、少しでも良い印象を周りに与えることが大事です。
最初から「できないやつ」というレッテルを貼られると、それを剥がすことはなかなか難しく、時間もかかります。
なるべくなら「できるやつ」と思われたいので、今回紹介した必須スキルを身に付けられると楽になると思います。